今回取り上げるのは「けもの道」。背表紙に「狩猟の道を切り開く狩猟人必読の専門誌」とある。
ニュータウン育ちの自分には、狩猟はまったく縁のなかった世界だけれど、近年始めた知り合いがふたりいる。ひょっとすると、物価高や環境問題など将来に対する不安が増す中で、自分の食べるものは自分で手に入れたいという欲求が、人々を狩猟にかりたてているのかも? なんて予想しながら本誌を読んだが、そんな話はどこにも書かれていなかった。
むしろ年々ハンターの数は減っており、60代でも「若い方」と呼ばれてしまう狩猟業界の高齢化の現状を嘆く声が目立つ。そのため害獣の駆除に苦慮している自治体もあるようだ。
他方、本誌を読み終えて一番印象に残ったことは、記事の多様さである。
ハンターのための射撃入門や銃の性能テストをはじめ、鳴き声を模して鹿を仕留める鹿笛猟のリポート、水面に落ちた水鳥の回収方法、名猟師の紹介、ジビエ料理の食べ歩き、獣医師による連載、ハンターのための学校&グループガイドあたりはわかるとして、狩猟時の動画の撮影入門や、動物園での屠体給餌(とたいきゅうじ)(害獣対策で駆除された鹿などの肉を餌として与えること)の話、日本初のジビエ自販機のルポと話は広がり、最後はパソコンで遊べるハンティングゲームの紹介まで載っていた。類書が少ないせいか、カバーしている情報が幅広い。
狩猟は環境問題やSDGsにも関連するから、さらに奥行きのある議論が期待できるジャンルでもあり、編集者は大変だけどやりがいがありそうだ。害獣駆除の場面でも「動物を殺すなんてかわいそう」と非難されることがあるようなので、生態系についての議論も深めておいた方がよさそう。
で、最新号の特集は「希少狩猟犬と猟に行く」。
猟にもいろいろあるが、やはり狩猟犬を連れての猟が花形なのだろう。ドイツ原産の鳥猟犬クライナー・ミュンスターレンダーの実猟同行リポートから始まり、梓山(あずさやま)犬の雪山での猟のリポートなど。のっけから耳慣れない犬の名前が次々出てきた。キジを咥(くわ)えた犬の目つきが鋭い。猟犬は、猟師が銃で仕留めたものでも、自分の獲物だと思っているので、引き渡させる訓練が必要ということを初めて知った。
好奇心をくすぐる記事が多いなか、最も驚いたのは、獲(と)ったカラスを食べるクッキングルポである。
カラスを食べる!?
都会暮らしの身には、カラスといえばゴミをあさっている姿しか浮かんで来ず、ちょっと遠慮したい気分だ。執筆者によれば「羽が黒いだけでただの鳥」だそうで、内臓の処理に注意すればかなりおいしく食べられるようだけど、んんん……。=朝日新聞2023年5月6日掲載