吉田大助が薦める文庫この新刊!
- 『ヴァケーション 異形コレクションLV』 井上雅彦監修 光文社文庫 1210円
- 『斬新 THE どんでん返し』 芦沢央ほか著 双葉文庫 726円
- 『NOVA 2023年夏号』 大森望責任編集 河出文庫 1320円
特定のテーマやジャンルのもとで作家が競作する、書き下ろし短編を集めたオリジナル・アンソロジーが密(ひそ)かなブームだ。文庫初出の作品を収録した短編集が、それぞれの作家の著作として後に単行本刊行されるような事例もある。
井上雅彦が監修を務める老舗アンソロジー・シリーズ、異形コレクションの最新巻(1)は、一五名が「ヴァケーション」というテーマで健筆を振るう。その一語は一般的に「長期休暇」を意味するが、異形≒ホラーの想像力を経由すれば「一定期間続く非日常」という景色が見えてくる。そこから帰ってこられない時間も怖いが、非日常を体験する前には戻れないという意味で、帰ってきてからも怖い。
(2)はミステリーの花形「どんでん返し」をタイトルに掲げる。ラストで真相が引(ひ)っ繰(く)り返ります、と宣言された状態であるにもかかわらず、気持ちいいくらいに騙(だま)された。短編ゆえに、どんでん返しを食らった後で二度読みし易(やす)いのもポイントだ。(3)は通巻一六冊目となるSFのアンソロジー・シリーズだが、今回の執筆者は全員女性。責任編集の大森望によれば、女性作家のみによる書き下ろしSFアンソロジーは「おそらく日本SF史上初」だという。日本SFの多様性を確信できる作品揃(ぞろ)いだ。
実は、三冊には共通点がある。斜線堂有紀が寄稿していることだ。どんなお題も高品質で打ち返す彼女の存在が、オリジナル・アンソロジーのブームに一役買っていることは間違いない。「アンソロジーの女王」と呼び讃(たた)えたい。=朝日新聞2023年5月20日掲載