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柚木麻子さん「オール・ノット」に込めた2つの意味 女性同士の連帯、ほころびても絶望しない

柚木麻子さん

 主人公の真央は貧困にあえぐ大学生。奨学金で大学へ通い、スーパーマーケットやビジネスホテルのアルバイトで生活費をまかなっている。ある日真央はバイト先のスーパーで、「何でも売れる」試食販売員のおばさん、四葉(よつば)に出会う。真央は親切にしてくれる四葉と仲良くなり、ある日彼女の宝石箱を託される。売れば奨学金の返済分にはなる、役立ててほしい、とお人よし過ぎる提案を受けた。2人はコロナ禍で疎遠になるが、社会人になった真央は偶然の出会いから四葉の数奇な過去を知ることになる……。

 執筆の背景には、2021年に小説「らんたん」を刊行したあとに受けた取材での後悔があった。「らんたん」は明治、大正、昭和を生き、女子教育に尽力した女性たちを史実に基づいて描く。#MeToo運動の高まりもあり、刊行後に様々な場でコメントを求められた。メディアが欲しがるのは、性暴力も女性の生きづらさも「女性同士の連帯で解決できる」という内容の発言ばかりだった。「でも、すべての問題を連帯で解決しようとするのは社会の怠慢ですよね。連帯はうまくいかないことの方が多い。あまりにも個人の優しさ、知恵に頼りすぎていると感じました」

 本作では、時にはもつれ、ほころびる連帯を正直に描く。でも読後に残るのは、絶望ではない。タイトルの「オール・ノット」には二つの意味が込められている。一つは、四葉の宝石箱に入っていた真珠のネックレスのつなぎ方(all knot)だ。真珠1粒1粒の間に結び目を作り、切れたとしても簡単にはバラバラにならないように仕上げている。

 もう一つの意味は、全部ダメってわけでもない(all not)。「日本では、誰かに手を差し伸べる行為は、完璧じゃないと許されない空気があります。完全に救えなかったとしても、優しくしたっていいじゃないですか」。コロナ禍の影響は大きく、日本社会の閉塞(へいそく)感も色濃い。「それでも、全部ダメってわけでもない。身近に手をとりあえる人は本当に一人もいないでしょうか。周りを見渡したら、手を結べなくもない……。連帯はそのくらいでもいいんです」

 ときにほころび、結び目は細くなる。それでもつながり続ける連帯が、ここにある。(田中瞳子)=朝日新聞2023年6月14日掲載