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心揺さぶるお仕事小説3選 「転職の魔王様」など吉田大助が薦める新刊文庫

吉田大助が薦める文庫この新刊!

  1. 『転職の魔王様』 額賀澪著 PHP文芸文庫 924円
  2. 『君は医者になれない 膠原病内科医・漆原光莉と血嫌い医学生』 午鳥志季著 メディアワークス文庫 737円
  3. 『リーガルーキーズ! 半熟法律家の事件簿』 織守きょうや著 新潮文庫 825円

 お仕事小説はルーキーの存在が付き物だ。先輩が新参者に基礎知識をレクチャーする過程で、門外漢の読者も業界について学べる。

 転職エージェントが舞台の(1)は、毒舌と凄腕(すごうで)ゆえに魔王様と呼ばれるキャリアアドバイザー(CA)の元で働くことになった、見習いCAが主人公。求職者たちが語る転職理由の奥にある「本音」を、魔王様は引き出していく。偶然就いたCAの仕事を通して、自分にとっての天職は何か、と主人公もまた己を探る展開は説得力抜群。魔王様の「本音」の告白もグッとくる。

 (2)の主人公は、血が怖い、という致命的問題を抱えた医学生の青年だ。医学部長から留年回避の救済措置として、アレルギー・膠原病(こうげんびょう)内科の手伝いをするよう命じられる。診察に訪れるのは、免疫システムが暴走して自分自身を攻撃してしまう、自己免疫疾患の患者たち。治らない病気であるため、彼らは病院に通い続ける必要がある。医師の漆原が告げる、「膠原病内科は、患者の人生を背負う科なんだよ」という言葉が重い。ラストは号泣必至だ。

 (3)は司法試験に合格した後の一年間、裁判所、検察庁、弁護士事務所でプロになるためのトレーニングをする、司法修習生たちの群像模様を描いた連作集。プロならばスルーするような法律への疑義を抱いて立ち止まる、理想に燃え「青臭すぎ」な彼らの言動は、教育係である先輩法律家たちの心を揺さぶっていく。

 ルーキーは、プロを初心に返らせる。小説に限らず現実の職場でも、不可欠な存在なのだ。=朝日新聞2023年6月24日掲載