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「どれほど似ているか」書評 社会を照らすフェミニズムSF

評者: 前田健太郎 / 朝⽇新聞掲載:2023年07月15日
どれほど似ているか 著者: 出版社:河出書房新社 ジャンル:小説

ISBN: 9784309208831
発売⽇: 2023/05/26
サイズ: 20cm/370p

「どれほど似ているか」 [著]キム・ボヨン

 ここ数年、韓国のSF界が活況を呈している。日本でも、キム・チョヨプやチョン・ソンランの本が次々と翻訳されてきた。キム・ボヨンは、その中でも早くから活動しており、英語圏でも注目を集める作家だ。
 近年の韓国におけるSFブームの特徴は、フェミニズムSFの放つ存在感にある。多くの作家が、ジェンダーの視点を取り入れて女性差別や家族の問題を描く。「男性が宇宙船に乗って戦争に行く」といった古風な物語に慣れていると、新鮮な驚きに遭遇するだろう。
 表題作の「どれほど似ているか」は、このフェミニズムSFの手法を用いた作品だ。物語は、ある宇宙船のAIが人型の義体に転送されて目覚める場面から始まる。この船には土星の衛星にある基地に救援物資を届ける任務があるのだが、男性の船員たちはAIと協力して任務に取り組むどころか、露骨な敵意を向け、暴行を加える。
 一体、なぜ彼らは自分を敵視し、暴力を振るうのか。なぜ自分はこの体に転送されたのか。AIは状況を理解しようとするのだが、なぜか理解できない。実は、そのこと自体にも驚くべき理由が隠されている。この物語を読んだ後は、宇宙を舞台とするSF作品を見る目が変わるはずだ。
 その他に、タイムトラベルを扱う「0と1の間」や超能力者が主人公の「この世でいちばん速い人」など、本書は実に多彩な手法でSFの王道のテーマに挑む。
 その中で注目すべきは、現代韓国の社会問題への言及が随所で行われていることだ。そこでは、今も残存する女性差別や、日本よりも遥(はる)かに激しい受験競争が描かれる。同時に、数年おきに世の中を動かしてきた市民運動のエネルギーも伝わってくる。
 そんな歴史を背景に書かれた物語は、鋭い政治性を持つ。本書は、自然科学の知見を用いつつ、人間社会への洞察に基づいて新たな世界を構想するというSFの魅力が溢(あふ)れる一冊だ。
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Kim Bo-young 1975年生まれ。ゲーム開発やシナリオ作家などを経て作家に。韓国を代表するSF作家。著作は、本作が初邦訳。