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「DIOR by Dior」書評 魅力伝える自伝を新訳で

評者: 藤田結子 / 朝⽇新聞掲載:2023年07月22日
DIOR by Dior クリスチャン・ディオール自叙伝 著者:クリスチャン・ディオール 出版社:集英社 ジャンル:伝記

ISBN: 9784087861372
発売⽇: 2023/05/30
サイズ: 20cm/318p 図版16p

「DIOR by Dior」 [著]クリスチャン・ディオール

 世界最大のファッショングループLVMH傘下にあるディオール。アルノー会長兼CEOは一時期、世界長者番付トップになった。5月下旬まで開催された東京都現代美術館「ディオール展」では、インスタ映えする壮大な展示空間が仕掛けられ、宣伝効果も大きかっただろう。こうしたタイミングで半世紀以上前の自伝の新訳が発売されたわけだが、創始者の人柄には純朴な一面が窺(うかが)える。
 ブルジョア家庭に生まれたムッシュ・ディオールは、花を愛する母の影響で、子供時代は植物や庭師と過ごすのが一番幸せだったという。クチュリエとして、理想は熟練職人に分類されることだと語る。エレガントな美への強いこだわりを示す一方で、「おいしいものが大好き」で、肥満体形であることを嘆いたりもする。アメリカ滞在記の観察眼も鋭く面白い。デザイナーが綴(つづ)る人生もブランドストーリーの構成要素なのだろうが、あらがえない魅力に溢(あふ)れる一冊だ。