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明晰に課題を解き明かす「資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか」など高谷幸が選ぶ新書2点 

『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』

 金融危機にパンデミック、気候危機。貧困や人種・ジェンダー差別の持続と複雑化。これらを解決すべき政治は機能不全を起こしている。こうした現状を前に、多くの人びとは何かおかしいと感じているのではないだろうか。ナンシー・フレイザー『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』(江口泰子訳、ちくま新書・1210円)は、これら諸課題の原因を「制度化された社会秩序」としての資本主義に見出(みいだ)す。資本主義は歴史的に変化しつつも、人種化された被支配民の収奪、社会的再生産、自然、公共財という外部でありつつ自らが依存する要素を貪(むさぼ)り喰(く)う「共喰(ぐ)い」の構造をもつという。様々な現象と課題を一つの枠組みに明晰(めいせき)に位置づける本書は、読者の視界を一気に広げるだろう。
★ナンシー・フレイザー著/江口泰子訳 ちくま新書・1210円

『家政婦の歴史』

 濱口桂一郎『家政婦の歴史』(文春新書・1100円)は、数年前に起きた家政婦死亡事件をきっかけに、これまで顧みられてこなかった彼女たちの歴史を辿(たど)る。「家政婦」とは、二〇世紀初頭に主婦たちが始めた事業であり、「女中」すなわち「家事使用人」とは別物だった。だが戦後、業界が生き残りを図る中、その位置づけは曖昧(あいまい)化されてしまった。家事介護の外部化で利用が広がる労働者の位置づけに、歴史的な観点から一石を投じる著作だ。
★濱口桂一郎著 文春新書・1100円=朝日新聞2023年8月26日掲載