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ミロコマチコさん絵本「みえないりゅう」 奄美の暮らしから生まれた「目には見えない存在」の物語

ミロコマチコさん。後ろに並ぶのは「みえないりゅう」の原画

 画家・絵本作家のミロコマチコさんが新作絵本「みえないりゅう」(ミシマ社)で描いたのは、目には見えない存在だ。

 小さな海で生まれた「りゅう」は、動物たちの目には見えていない。波をつくって海を泳ぎ、雪とともに移動し、最後は再び小さな海に帰ってくる。

 大きな波が生まれたときは〈ざぁざば〉、氷が溶けるシーンは〈ぴっつ ぴった ぴっと とん〉。印象的な擬音語と鮮やかな色使いの絵で、りゅうの呼吸や移ろいゆく季節の美しさが伝わってくる。

 ミロコさんは2019年に東京から奄美大島へ移住した。本作は、奄美での暮らしから生まれた。「島の人たちは、りゅうや妖怪といった目に見えない生き物の話をよくするんです。私も見えないものを感じようと、一生懸命感覚を研ぎ澄ませ、うっすらと感じ取れたものを絵にしていった。繰り返すうちに、物語が生まれました」

 島では、「海に潜ったらりゅうがおった」という風に、日常会話に登場する。何を指してりゅうと呼ぶのか、定義はない。ミロコさんは、自然そのものを指すのではないかと話す。「人によって、りゅうの形は違うのだと思う。漁業に携わる人は波の動きを、農業をしている人は種をまく時期を教えてくれる気候を感じ取り、りゅうと言っているのではないでしょうか」

 りゅうの生きる海は青や白だけでなく、黄色や赤も混ざり合いカラフルに表現される。「絵を描くのにも、見えないものを見る感覚が大事なんです。私は緑の葉っぱを見て、赤いと感じることがある。そのときは葉っぱを赤く描きます。海を眺めていても、すごくカラフルでにぎやかに見えるんですよね。描くことは感じることでもあります」

 「オオカミがとぶひ」で絵本作家デビューしてから、野性味あふれる動物を描いてきた。自分で獲物をとって生きる動物の強い姿に憧れていた。奄美へ移住したのも、自然のなかに身を置いて、生きる力を身につけたいと思ったからだった。

 でも、住んでみてわかったのは、自然を前に一人で立ち向かうことはできないということ。「できないとわかると、反対に人とたくさん関わりたくなった。するどい一匹おおかみが、人と関わり、受け入れ合うあたたかさを感じるようになっていった。私の内面の変化も、今回の絵本に表れているのかもしれません」=朝日新聞2023年8月30日掲載