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天武系と捉え直し、新視点「桓武天皇 決断する君主」 田中大喜が選ぶ新書2点 

『桓武天皇 決断する君主』

 「造作(都造り)」と「軍事(東北遠征)」で著名な桓武天皇。瀧浪貞子『桓武天皇 決断する君主』(岩波新書・1166円)は、桓武を天武系天皇と捉え直すことでその新たな実像を描き出す。

 桓武の即位は、天武系から天智系へと皇統が転換する画期と見なされてきた。しかし本書では、実は桓武が天武系天皇であることを強く自覚していたと説く。そして、生母の出自に不安を抱えるがゆえに、桓武は天武系における自身の正統性と威厳を誇示する必要があり、それが「造作」と「軍事」の原動力になったと論じる。従来と大きく異なる視点から語る刺激に満ちた桓武論。
★小泉武夫著 岩波新書・1166円

『足利将軍たちの戦国乱世』

 群雄割拠の戦国時代において、とかく影の薄い足利将軍。山田康弘『足利将軍たちの戦国乱世』(中公新書・924円)は、戦国時代の7人の足利将軍の生涯を辿(たど)りつつ、将軍が同時代に生き残れた要因に迫る。

 戦国時代の日本列島を〈天下〉と〈国〉という二つの次元にわけ、将軍は前者を主たる活動領域にしたことを示す。そして、そこは「闘争・分裂」とともに「協調・まとまり」などの側面もあったために、将軍は存続できたと論じる。戦国時代の将軍を現代の国際機関に準(なぞら)えて当時と現代世界の類似性を示し、戦国時代を学ぶ意義をも熱く語る。
★山田康弘著 中公新書・924円=朝日新聞2023年9月16日掲載