1. HOME
  2. コラム
  3. 新書速報
  4. 科学者が書いた異形のアート論「創造性はどこからやってくるか」 杉田俊介が選ぶ新書2点 

科学者が書いた異形のアート論「創造性はどこからやってくるか」 杉田俊介が選ぶ新書2点 

『創造性はどこからやってくるか 天然表現の世界』

 科学者として難解な生命理論を書いてきた郡司ペギオ幸夫の『創造性はどこからやってくるか 天然表現の世界』(ちくま新書・1034円)はアート論である。しかも実際にアートを創造し、日本画家の中村恭子と展覧会を開いた。その記録である。本書もまた難解ではある。だが、内側/外側という構図を超えるものが〈外部〉から降臨するのを準備=召喚する、それが創造性である、という姿勢は一貫している。本書自体が、すでに通常の言語でもなくアートでもないような、異形の「とんでもない」ものなのだろう。
★郡司ペギオ幸夫著 ちくま新書・1034円

『ハイチ革命の世界史 奴隷たちがきりひらいた近代』

 浜忠雄『ハイチ革命の世界史 奴隷たちがきりひらいた近代』(岩波新書・1056円)を読み、誠実な学問の積み重ねが持ちうる実践性に、深く感銘を受けた。ハイチ革命はフランス革命とアメリカ独立革命とともに「一八世紀の三大革命」と呼ばれる。そしてそこには反レイシズム・反黒人奴隷制・反植民地主義という先駆性があった。著者が強調するように、ハイチ史を学ぶことは、既存の世界史の「書き加え」「書き直し」となるばかりか、日本列島の我々の足元の問い直しともなる。混迷と危機の中にあるハイチの「脱植民地化」は「未完」であり、旧宗主国の「脱植民地主義」化も「未完」である、という本書の「宿題」は重い。
★浜忠雄著 岩波新書・1056円=朝日新聞2023年9月23日掲載