ベストセラー「屍人荘(しじんそう)の殺人」で知られる小説家、今村昌弘さんが初めて書いたジュブナイル「でぃすぺる」(文芸春秋)が刊行された。「町の七不思議」に隠された謎を3人の小学6年生が解き明かしていくホラー&本格ミステリー。好奇心と冒険心にあふれていた少年少女時代の記憶を呼び覚ます快作だ。
「デビュー以来、凄惨(せいさん)で込み入った事件を取り扱ってきた反動でしょうか、探偵のように職業的な必然性で事件に挑むのではなく、明るいパワーを持った子供たちが暗いものを吹き飛ばすような、活動的なミステリーを書いてみたかった」
物語は夏休みが明けた新学期に始まる。オカルト好きのユースケ、元学級委員長のサツキ、ミステリー好きのミナは掲示係に就き、壁新聞で「町の七不思議」を取り上げることにした。「七不思議」は1年前に殺害された、サツキの従姉(いとこ)マリ姉のパソコンに残されていたファイル。六つの怪談と「七つ目の不思議を知ったら死ぬ」との文言が書かれていた。3人はマリ姉の死の謎を解き明かすべく、怪談の調査を始める。
ミステリーを愛好する今村さんだが、同じくらいオカルトや怪談も大好き。それゆえに昨今の怪異の取り扱われ方に不満があった。
「心霊スポット突撃!みたいな動画を見ていると、なんだか怖がっているだけなんですよね。オカルト好きならむしろ正体を突き止める努力をしようよと。機材を整えて真剣に真贋(しんがん)の証拠を集める気概を持とうよと。そんな思いを3人に託した一面がありますね」
山中のトンネルや廃虚になった宗教施設など、町の心霊スポットを訪れながら、3人はマリ姉が怪談に潜ませたメッセージを読み解いていく。ユースケはオカルト肯定派、サツキは否定派の立場から仮説を展開、その応酬に現れる矛盾をミナが指摘する。そんなディベートのような論理展開が心地よい。
「ジュブナイルを書くにあたって3人の頭脳レベルの設定に悩んだのですが、ルールが明確であれば小学生でもロジックを理解して読めるはずだと思って。推理を組み立てる過程を楽しんでもらいたくて、僕と同じくらいのことを考える子供にしたんです」
マリ姉の死の真相に近づくほどに、3人は町が抱える大きな秘密に気づいていく。そこには思いもよらない事実が隠されていた。
「子供からすれば、町の大人たちの考えも、オカルト現象も得体(えたい)が知れないもの。単なる子供探偵団の話ではなく、自分たちがわからないものに対して、どう行動して、どう解決するのかの過程を書いてみたかった。ミステリーやホラー好きの大人にも、ユースケたちと同世代の子供たちにも読んでほしいですね」(野波健祐)=朝日新聞2023年10月4日掲載