- 『盤上に君はもういない』 綾崎隼著 角川文庫 880円
- 『心淋(うらさび)し川』 西條奈加著 集英社文庫 704円
- 『何年、生きても』 坂井希久子著 中公文庫 880円
厳しい現実を生き抜くために、女性たちが結ぶ連帯を描いた三作。
(1)は、女性のみのリーグを戦う「女流棋士」ではなく、現実でも未(いま)だ存在しない「女性棋士」の誕生を描く物語。その人物、千桜夕妃(ちざくらゆき)の半生を巡る謎と共に、彼女と運命を交錯させた人々の群像が紡がれる。中でも、史上初となる「女性棋士」の座を争った諏訪飛鳥の存在が印象的だ。将棋とは「愛の戦い」であると記す、本作の思想が二人の関係性に象徴されている。
直木賞受賞作の(2)は、江戸は千駄木町の一角にある、数戸の長屋が集まった心町(うらまち)が舞台。隣人愛に貫かれた人情味溢(あふ)れる連作集だが、二編目の「閨仏(ねやぼとけ)」が格別だ。りきは不美人であることが気に入られ、青物卸を営む六兵衛の最初の妾(めかけ)となる。穏やかな日々は新たな妾の登場で変化し、さらに三人目、四人目。妾四人の奇妙な共同生活は、六兵衛の死により終わりを迎えるはずだったが……。誰もが認める幸せを拒否しているにもかかわらず、りきの最後の決断には幸福感が漲(みなぎ)っている。このような「家族」の形もあり得るのだ、と目を開かされた。
(3)は夫婦関係に悩む磯貝美佐が、実家の箪笥(たんす)に隠されていた祖母の手記を読み進める。そこには、若かりし頃の祖母が「龍子姉さま」と過ごした日々が綴(つづ)られていた。手記で明かされた、祖母が人生で成した驚くべき決断を知ることで、美佐は己の人生を顧みる。戦中戦後の女性同士の連帯を描いた本作は、祖母と孫娘の連帯の物語でもあるのだ。=朝日新聞2023年10月7日掲載