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雑誌「MOE」 大人も満足、絵本とその先の世界

「MOE」

 存在は知っていたけれど、これまで手にとらないでいた絵本の雑誌「MOE(モエ)」。子ども向けの雑誌なのかと思い込んでいた。

 しかしこのたびページをめくってみると、大人がしっかり読める内容で、むさぼるように読んでしまった。

 絵本は子どもの頃によく読んだが、大人になれば遠ざかるかと思いきや、親になってまた読むようになった。一時は毎週20冊ぐらい図書館で借りるほど、子どもといっしょにドカドカ読みあさったのである。その後子どもは離れていっても、依然自分は絵本に惹(ひ)かれたままだ。むしろ大人になればなるほど魅力にとりつかれていく気がする。「MOE」は、そんな絵本の魅力を伝えてくれるだけでなく、内容が絵本にとどまらないところに特徴がある。

 特集を見ると、超有名どころのムーミンや、ぐりとぐら、ピーターラビットなどのほか、著名作家のヨシタケシンスケ、荒井良二、ヒグチユウコらがとりあげられるのは予想できるが、バックナンバーに、植物学者牧野富太郎の特集号があったのは意外だった。先月まで放送していた朝ドラ「らんまん」にあやかったのだろうか。牧野富太郎って絵本描いてたっけ?

 さらに10月号の特集は刺繍(ししゅう)である。刺繍絵本だけでなく、刺繍そのものにフォーカスした記事は、絵本雑誌の枠を少しばかり踏み越えている。「MOE」は絵本の雑誌でありつつも、そこから外の世界へ橋渡しするような企画が多いのである。

 10月号だけを見ても、ルーマニアのトランシルバニア地方へ刺繍職人のおばあさんを訪ねる紀行エッセーや、プラバン・アート(透明なプラスチックに絵を描き、オーブントースターで加熱し縮めるクラフト)の記事があるかと思えば、染色家柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)の言葉を拾い、その人生に学ぶページあり、全国の個性的な食堂をめぐる連載あり、さらにブンケイ喫茶(文学と関係のある、もしくはそんな香りのする喫茶店)の連載も新しくはじまるようだ。

 前号では、ミュージアムグッズの研究や、「物語の中の不思議な洋館」という切り口で絵本から小説の世界へと繋(つな)ぐ特集もあった。

 絵本を皮切りに、アートや文学、さらには人の生きざまにまで読者の世界を広げてみせようという意気込みが感じられる。

 もちろん絵本そのものへの切り込みも忘れてはいない。10月号の「異世界転生!?絵本」企画は面白かった。異世界に転生するストーリーの絵本を紹介するという、読者の期待の拾いあげ方に妙味を感じる。

 ページを閉じる頃には、絵本の雑誌を読んだつもりが、広い世界に触れたようなお得感に満たされている。子どもにとっても大人にとっても、絵本は新しい世界への扉なのであった。=朝日新聞2023年10月7日掲載