- 『夢みる宝石』 シオドア・スタージョン著、川野太郎訳 ちくま文庫 1045円
- 『日没』 桐野夏生著 岩波現代文庫 990円
- 『フリアとシナリオライター』 マリオ・バルガス=リョサ著、野谷文昭訳 河出文庫 1650円
秋の夜長には、現実と奇想が駆け引きする古今の三冊がそろった。伝説のSF作家の第一作である(1)では、8歳の孤児のホーティーが育ての親のもとを出て、カーニバルの団員たちに仲間入りする。やがて、団長が人類への憎しみから温めている計画と、ホーティーの不思議な能力が、水晶という未知の生命体をめぐって交錯していく。善悪の明確なドラマではあるが、人間とは何かという問いに支えられた思弁的な幻想の味わいは清新ですらある。
日本を舞台とする(2)では、文学の表現が国家によって強く規制される未来が描かれる。エンタメ作家のマッツ夢井は、小説の性描写がもとで文化文芸倫理向上委員会なる組織に呼び出され、矯正対象として施設に収監されてしまう。不条理な規則に支配されたその施設から、主人公は果たして出られるのか。先の見えない閉塞(へいそく)感の背後にぼんやりと浮かぶ、変質した社会が、現在と地続きであるのが恐ろしい。
ノーベル賞作家がペルーでの青春時代を題材にした小説、という体裁の(3)は、単なる郷愁を超えた仕掛けと遊び心に満ちている。リマで小説家を志す大学生マリオの日常は、勤務先のラジオ局に雇われた劇作家の驚異的な多作ぶりと、離婚して帰国した義理の叔母フリアへの恋心によって大きく揺さぶられていく。劇作家が繰り出す作品は明後日の方に脱線していく一方、フリアとの恋愛が真剣さを増していくという二つの物語が絡み合い、息もつかせぬほど豊穣(ほうじょう)な世界を作り上げる。=朝日新聞2023年10月28日掲載