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花田菜々子「モヤ対談」 「自分の話」として内面掘り下げる

 流浪の書店員として数々の書店を渡り歩き、昨年高円寺で「蟹(かに)ブックス」を開店した花田菜々子氏。書店員として販売する本の内容を咀嚼(そしゃく)しながら、気になった本の著者と対談し、自らの内面にあるモヤモヤを解きほぐしていく対談集。選ばれた本20冊とその著者たちの語る言葉が、必ずやだれの心にも響くであろう構成となっている。

 絵本作家のヨシタケシンスケ氏の絵本では、大人たちが完璧ではない。このことに気づいた花田氏が当人にその感想をぶつけると、実は意識的だったことがわかる。絵本作家としては少数派かもしれないが、自然に固定観念を変革した創作者の声を拾った。

 マイノリティーの集合体こそがマジョリティーであり、多様性だ。ただ、こうした認識が広まってきてはいても、一人のマイノリティーが、別のマイノリティーの状況や生きづらさに想像をめぐらす余裕はあまりない。子どもを持つシングルの恋愛、家事と生産性、人権、推し活、加齢、ジェンダー、個人店、食、言語……。本書は、単に著者に本の内容をインタビューするのではなく、こうした問題意識をテーマに立てて読書体験への導入とした。キーワードを並べたうわべだけの本ではなく当事者の具体論で「自分の話」として掘り下げる。

 本を読む、という行為も、現代では衰退著しい、マイノリティーの楽しみかもしれない。いくらその効用を述べ立てても読者離れは止まらない。しかし、本を読むことが自己の内面を知る個人的なことであると同時に、社会的な行為でもあることが理解できる点で、この対談集は出色の出来栄えだ。

 興味をそそられたのは『東京の生活史』を成した岸政彦氏との対談である。

 花田「だから結局この本の面白さをずっと言い表せないでいるんですけど、それでもやっぱり開いてみると、なぜかずっと読んでしまう面白さがあるというか」

 岸「本って視覚的な表現だと思われがちだけど実は音楽に近くて、一文字一文字が音符なんですよね。それが一本の線でつながっているんですよ。本って楽譜やなと思っていて。音楽と一緒で、いい本って要約できないし、その全部を味わうしかない」

 読書は時間的体験だ。それは本書にもあてはまる。対談に耳を傾けた時間は伸縮できない。つまり要約はできない。要約できないけれど時間の密度が高い。ゆえに紹介しづらい。一番困ったのは書籍のタイトルだったのではなかろうか。

 特筆したいのは、各発話ごとに1行空いている点だ。圧倒的に読みやすく頭に入ってくる。勇気のいることだったと思うが、デザインにも拍手を送りたい。=朝日新聞2023年12月16日掲載

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 小学館・1870円。対談したのは、ブレイディみかこ、東畑開人、西加奈子、永井玲衣、ライムスター宇多丸ら各氏。文芸誌「STORY BOX」の連載をまとめた。