【この記事で紹介する絵本】
- おばあちゃんに伝えたかったのは…『ぼく、いいたい ことが あるの』
- かわいいけれど、スケールは壮大!? 『おふろおじゃまします』
- その動きのどれもが横綱級!『どすこい みいちゃん パンやさん』
- そして世界はここにある。『じっとみるの』
- 今日吹いた新しい風は……『きょうもかぜはいろづいて』
- 母さんみたいになりたくて……『きりんのこが せのびをしています』
- 夜の虹の世界は、摩訶不思議『よるよ』
- 里山には、小さな喜びがいっぱい!『やまをとぶ』
- 誰かの命は誰かの糧になり。『どんぐり』
- じぶんのすきなところへ。『ちいさな木』
- 時間ってなんだろう? 『きみが 生きる いまの おはなし』
- みんなのために、未来のために……『いつかきっと』
おばあちゃんに伝えたかったのは…『ぼく、いいたい ことが あるの』
ぼくは朝、手紙を書こうとしたんだ。でも、なんて言えばいいのか、わからない。だって、おばあちゃんの家に行った時、おばあちゃんはあんまり疲れすぎていて、少しも動かなかったから。ぼくは、なんにも言えなかったんだ。なんにも……。
【編集長のおすすめポイント】
一度心に深く刻まれた悲しみや寂しさは、いつまで経ってもなくならない。経験を積み重ねてきた大人になればなるほど、その実感があるのではないでしょうか。それでも、この小さなぼうやが、受け入れがたい事実に対して、体を動かしながら必死で考え、乗りこえていこうとする姿には、頼もしさを感じずにはいられません。そこに生まれてきた言葉の愛おしさを、しっかりと味わいたいと思うのです。
かわいいけれど、スケールは壮大!? 『おふろおじゃまします』
おふろが大好きなたろちゃんとかばちゃんは、トロッコ列車に乗って、みんなのおふろに入りに出かけます。「おふろ おじゃまします」最初に着いたのは、うさぎちゃんのおふろ。ぷくぷく、もこもこ、あわのおふろ。次におじゃましたのは、ぶたちゃんのどろんこぶろ。がたんごとん、さらに進むと森の中……。
【編集長のおすすめポイント】
入るのを嫌がる子もいれば、いったん入ったら出るのを嫌がる子もいるのが「おふろ」。でも、お湯の中に浸かった時の「ぷは~」という瞬間には、大人の心も子どもの心も溶かしてしまう魔力がありますよね。さらにおふろに入りながら色々なことをしたがるのも、大人になるまで変わらぬ夢。こんなおふろがあったら、ずっと出たくなくなっちゃうに決まってます。
その動きのどれもが横綱級!『どすこい みいちゃん パンやさん』
パンやのみいちゃんは、朝からていねいに生地をこねます。どすこい、どすこい、おいしくなあれ。生地を丸める時も一生懸命。どすこい、どすこい、くるくるりん。慌てず、ゆっくり、すりあし、すすす。つかれたみいちゃんは、パンが焼けるまで一寝入り。おやまあ、なんと。夢の中でみいちゃんは、どすこい横綱みいちゃんに!
【編集長のおすすめポイント】
「なんでねこなの?」「なんでパンやなの?」「どうしておすもうさんなの?」……そんな疑問が一発でふっとんでしまうほどインパクトのある、パンを持ったみいちゃんの土俵入りの姿。迫力があればあるほど、おかしみが増してくる町田さんの描くねこ。その魅力を味わいながら、ゆっくりみいちゃんの背景にある物語を想像する。そうやってじっくり楽しみたいものです。
そして世界はここにある。『じっとみるの』
静かにじっと見る。そうすれば、わたしは中にはいれるの。ビー玉の中にも、ソーダすいの中にも、しゃぼんだまの中にだって。ころんころんと転がる感覚だって、小さなあわが足のうらをくすぐる感触だって、ふわふわと雲の上にとんでいく浮遊感だって、わたしにはわかる。
【編集長のおすすめポイント】
どこか一点が気になると、そこばかりを見てしまう。見ているうちに、何を見ているかわからなくなってくる。いつの間にか自分が小さくなって、そこで自由に遊べるようになる。そんな経験があれば、この絵本の世界を一瞬で理解できてしまうかもしれません。想像力というのは、なにも外へ向けられた広い視野ばかりから生まれるものではなく、こんな風に凝縮した視点からも生まれることもあるのです。新しい感覚との出会いは、意外ともっともっと身近に隠れているものなのかもしれませんね。
今日吹いた新しい風は……『きょうもかぜはいろづいて』
今日もまた一日がはじまり、風が吹きわたる。
生きとし生けるものが、ざわめく風のなかでたわむれる。
どこから きたの?
なに みてきたの?
だれと あそんだの?
深い青、輝くような黄色、澄んだ水色。
光の加減で様々な色に変化しながら、風は優しく問いかける。
【編集長のおすすめポイント】
夕陽に染まるオレンジ色の景色の中、ぽつんと佇む彼が感じているのはどんな風?日が沈む直前、赤から紫、深い青へと刻々と変化していく空の中で過ごす彼らに吹いているのは、どんな風? じっと眺めて想像しているうちに、ふと絵本の中に吸いこまれていくような感覚にもなって。まるで同じ空間を体験しているかのよう。いつか大人になった時、絵本の中の景色や色をふと思い出すようなことがあったらいいな、と思うのです。
母さんみたいになりたくて……『きりんのこが せのびをしています』
母さんみたいになりたくて、きりんの子が背伸びをしています。くびをまっすぐぴーんと伸ばして、たかーく、ながーく。草原で一番高い木のてっぺんの葉っぱを食べたくて、毎日上を見て背伸びをしていたら母さんみたいに背が高くなっていました。もっともっと伸ばしていたら、草原の向こうの地平線のかなたまで見えるようになり、宇宙人とも友だちになり、さらにさらに……?
【編集長のおすすめポイント】
緑色の画面の中、あどけない瞳でこちらをじっと見つめるきりんの子。なんて愛らしい表紙なのでしょう。お母さんが見ているもの、お父さんが見ているもの、お兄ちゃんやお姉ちゃん、まわりの友だちが見ているものが見てみたい。そのもっと先も見てみたい。そんなことを思っているのでしょうか。ママの背中におんぶされているあの子の目には、パパの肩の上で遠くを見ているその子の目には、何が見えているのでしょうね。興味がわいてきてしまいます。
夜の虹の世界は、摩訶不思議『よるよ』
「よる いるよ」真っ暗な景色の中、こんな言葉から始まるこの絵本。そう、これは「回文絵本」。左から読んでも右から読んでも同じ読み方になる言葉、回文だけでできている絵本なのです。夜の海に星がひとつ落ち、海の中から輝く虹があらわれて、いぬとくまとねこによる、見たこともない大冒険がはじまります。
【編集長のおすすめポイント】
制約がありながらも、声に出して読んでいるうちに、意味から自由に飛び立っていけるような感覚もあり。それは知らない国の言葉のようにも、呪文のようにも聞こえてきて。絵本の中の宇宙空間にもぴったりハマり、フワーっと不思議な世界に連れていかれるみたい。おそるべし回文の世界。お二人の組み合わせの絵本を、もっともっと体験してみたくなってしまいます。
里山には、小さな喜びがいっぱい!『やまをとぶ』
ぼくのうちはね、山にかこまれてる。まわりには、色んないきものがすんでるよ。ほら、伝書ばとも風みたいに飛んでいる。いいなあ、ぼくもかけっこしたら風みたいになれるんだ。絵本作家きくちちきさんが、家族で住んでいる里山を舞台に、いきものたちと共に生きるよろこびを描きます。
【編集長のおすすめポイント】
「ぼく」が嬉しそうに語る言葉によって進んでいくこの絵本、その視点は空の上にも、地面にも、まわりのともだちや大人たちにも、空想の中にも、自由気ままに注がれていき、その一つ一つの命のきらめきを全身で受け止めていく様子が描かれてます。その様子を追っていくだけで、私たちは里山の広さや空気や風まで感じることができるようです。山は大きくて、空は広い。そんなあたり前のことを体感できている「ぼく」がうらやましくなってきますよね。
誰かの命は誰かの糧になり。『どんぐり』
見上げる木々の梢から無数に降ってきて、地面に落ちた美しいどんぐりたち。しかし、ページをめくるたび、それらは森の生物たちに食べられていきます。野ネズミが食べ、鳥が咥え去り、穴が空いたどんぐりの表面からは中を虫が喰ったことがわかります。そこから生き残って根を出し芽吹いたどんぐりも、若芽が動物や虫に食べられ、ほとんどが死んでいきます。けれども……。
【編集長のおすすめポイント】
そこに言葉がなくても、風が吹き、森がざわざわと大きくうごめく音がする。耳をすませば、小さな生き物たちのかさこそと動く音が聞こえてくる。緻密に描かれた自然の絵の美しさと迫力に魅入られていると、いつの間にか読者は繰り返される生と死の真っただ中に立たされていることに気付くのです。読んだ後には途方に暮れる気持ちになりながら、でも、生きていることの奇跡をより実感することもできるのです。
じぶんのすきなところへ。『ちいさな木』
もう何年もそこに生えている1本のちいさな木。ある時犬が走ってきて、こんなことを言います。「ぼく、ゴッチ。つなを くいちぎってね、家出したんだよ。これから じぶんの すきなところに いくんだ」自分の好きなところ? ちいさな木は自分も行ってみたくなります。ためしに根っこをよっこらしょって引き抜いてみると……歩けた! さあ、冒険の旅に出発です。
【編集長のおすすめポイント】
小さな木が根っこを引き抜いて歩き出し、岩がゴロンゴロンと自分で転がり、沼がみんなの力を借りながら立ち上がる。「そんなことって……!?」 彼らが自分自身に驚くと同時に、読者も同じくらい驚いてしまいます。そんなの無理だって思い込んでいたのは、私たちの方なのかもしれませんね。誰だって、どこにでも行ける! 4人が歩く姿は、見ているだけでワクワクしてきます。
時間ってなんだろう? 『きみが 生きる いまの おはなし』
時計やカレンダーの数字は、時間や月日を教えてくれる。でも、時間ってなんだろう? 時間は、種かもしれない。じっと眠っていて、その時がくると花になる。そして、やがてしおれてしまう。時間は、チョウかもしれない。時間は思い出かもしれないし、髪の毛がのびることかもしれない。時間はゆっくり進むこともあるし、あっという間に過ぎていくこともある。時間は……。
【編集長のおすすめポイント】
つみ重なっていく時間、変化していく時間、切り取った時間、自由を感じる時間、じっくり考えるための時間、みんなで一緒に過ごす時間。年齢によって、環境によって、経験や状況によって、印象に残るページがそれぞれ違うのかもしれません。考えれば考えるほど、つかみどころがなくなっていくようです。でも、だからこそ、タイトルにある「きみが生きるいまのおはなし」が聞きたくなるのです。きみが生きる今は……。
みんなのために、未来のために……『いつかきっと』
「どうしようもないことさ」「やってもむだだね」みんなは言う。でも、やってみなくちゃわからないし、できることだってあるはずだ。とっても小さいものが大きいものを動かすことだって、あるんだよ。ジョー・バイデン大統領の就任式で自作の詩「わたしたちの登る丘」を朗読した詩人アマンダ・ゴーマンと、コルデコット賞を受賞したイラストレーターのクリスチャン・ロビンソンが生み出した絵本に込められているのは、時代を超えた希望のメッセージ。
【編集長のおすすめポイント】
世の中はもっと複雑なんだ……なんて思っていた自分にこそ、男の子の言葉はまっすぐに刺さってきます。「かなしいね」という言葉で片付けようとしていたけれど、そこには悲しいだけじゃなく、不安だったり、怒りだったり、様々な感情が色々と含まれているはず。自分の気持ちにもう一歩踏み込んで考えてみると、やるべきことが少しずつ見えてくるのかもしれません。年齢にかかわらず、絡まっていた気持ちを整理してくれる。絵本にはそんな力あるのだということを改めて感じさせてくれる一冊です。
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