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「死刑囚になったヒットマン」書評 殺し屋っぽくない殺し屋の実感

評者: 小宮山亮磨 / 朝⽇新聞掲載:2024年03月02日
死刑囚になったヒットマン 「前橋スナック銃乱射事件」実行犯・獄中手記 著者:山本 浩輔 出版社:文藝春秋 ジャンル:

ISBN: 9784163917764
発売⽇: 2024/01/25
サイズ: 19cm/230p

「死刑囚になったヒットマン」 [著]小日向将人、山本浩輔

 義理と人情を秤(はかり)にかけられるヤクザは、恵まれているらしい。運がない者は選ぶ余地もなく、危険な場に放り込まれる。
 覚えている人はもう少ないだろう。小さなスナックで暴力団組員2人が銃を乱射し、一般市民を含む4人が亡くなる事件が21年前にあった。本書は実行犯の片割れによる手記だ。
 両親は離婚し、母の再婚相手とは不仲。10代での出会いが彼の運命を変えた。ただし、悪いほうに。ヤクザにスカウトされ、「今日から俺を親父(おやじ)と呼べ」という男に心酔した。
 その親分はやがて、抗争相手を付け狙うようになる。彼は道具になった。
 書名に「ヒットマン」とあるが、そこから連想するプロの殺し屋っぽさは、彼にはない。
 手作りの火炎放射器で標的の自宅を襲ったが、ばらまいたガソリンに火はつかなかった。アジトへの移動中に横転事故で大けがをした。キャバクラでマシンガンを乱射しろと言われて待機したが、標的は店に来なかった。
 けがが癒えないまま、スナックでの事件へとなだれ込む。店の外には護衛役がいたし、店内には一般客もいた。親分に何度も中止を進言したが、返事は「みんなやっちまえ」。結果、関係ない人を死なせたのに、標的は殺せなかった。慌てた相方に誤射され、現場に置きざりにされかけた。
 不満ばかりなのに逃げなかったのは、家族を思ったからだという。「子どもは学校へ行く。連れて逃げても居場所はすぐにわかる」と、親分に脅されていた。
 使った銃の種類、親分との会話、犯行時に見たもの。驚くほど詳しい記述の一方で、被害者遺族への謝罪は通りいっぺんで心に響かない。ただ、この一文には実感がこもっていた。
 「やっても死刑、逃げても殺される。愛する家族も危険になる。いったいどうすれば良かったのだろうか? 誰か教えて欲しい」
 私には答えがない。
    ◇
こひなた・まさと 事件の実行犯として2009年に死刑確定。やまもと・こうすけ 元週刊文春記者。本書の解説などを執筆。