「死刑囚になったヒットマン」書評 殺し屋っぽくない殺し屋の実感
ISBN: 9784163917764
発売⽇: 2024/01/25
サイズ: 19cm/230p
「死刑囚になったヒットマン」 [著]小日向将人、山本浩輔
義理と人情を秤(はかり)にかけられるヤクザは、恵まれているらしい。運がない者は選ぶ余地もなく、危険な場に放り込まれる。
覚えている人はもう少ないだろう。小さなスナックで暴力団組員2人が銃を乱射し、一般市民を含む4人が亡くなる事件が21年前にあった。本書は実行犯の片割れによる手記だ。
両親は離婚し、母の再婚相手とは不仲。10代での出会いが彼の運命を変えた。ただし、悪いほうに。ヤクザにスカウトされ、「今日から俺を親父(おやじ)と呼べ」という男に心酔した。
その親分はやがて、抗争相手を付け狙うようになる。彼は道具になった。
書名に「ヒットマン」とあるが、そこから連想するプロの殺し屋っぽさは、彼にはない。
手作りの火炎放射器で標的の自宅を襲ったが、ばらまいたガソリンに火はつかなかった。アジトへの移動中に横転事故で大けがをした。キャバクラでマシンガンを乱射しろと言われて待機したが、標的は店に来なかった。
けがが癒えないまま、スナックでの事件へとなだれ込む。店の外には護衛役がいたし、店内には一般客もいた。親分に何度も中止を進言したが、返事は「みんなやっちまえ」。結果、関係ない人を死なせたのに、標的は殺せなかった。慌てた相方に誤射され、現場に置きざりにされかけた。
不満ばかりなのに逃げなかったのは、家族を思ったからだという。「子どもは学校へ行く。連れて逃げても居場所はすぐにわかる」と、親分に脅されていた。
使った銃の種類、親分との会話、犯行時に見たもの。驚くほど詳しい記述の一方で、被害者遺族への謝罪は通りいっぺんで心に響かない。ただ、この一文には実感がこもっていた。
「やっても死刑、逃げても殺される。愛する家族も危険になる。いったいどうすれば良かったのだろうか? 誰か教えて欲しい」
私には答えがない。
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こひなた・まさと 事件の実行犯として2009年に死刑確定。やまもと・こうすけ 元週刊文春記者。本書の解説などを執筆。