ロシアや中国といった国名を見聞きすると、一つのアクターであるかのように捉えがちだが、当然のことながら、それぞれに人々が暮らし、様々なアクターの駆け引きがその「国」を形作っている。田原史起(ふみき)『中国農村の現在』(中公新書・1056円)は、フィールド調査の話を交えながら農村部の今の姿を多角的に描き出す。筆致は臨場感に溢(あふ)れ、著者とともに中国各地を訪ねているような感覚に包まれる。そして、その「旅」からは、中国の大多数の民衆が住まう農村の政治や生活様式が、様々な形で中央政府の政治・戦略に埋め込まれたものであることを発見させられる。
★田原史起著、中公新書・1056円
宮嵜(みやざき)麻子『ローマ帝国の誕生』(講談社現代新書・1320円)は、この広大な帝国が生まれた経緯を支配者側と被支配者側の双方に留意しながら追う。版図の拡大につれて、統治の有り様が、支配・搾取から、領域に生きる人々の支持と利益に配慮したものへと変容していった様子が鮮明に浮かび上がる。注目すべきは、そのような変化をもたらす上での民衆の存在だ。宮嵜氏は本書の中で、広大な帝国の統治にはその空間に生きる人々の支持が不可欠であったと繰り返し指摘している。ローマ帝国の歴史は、現代の多くの国に対して重要な教訓を示しているのではなかろうか。
★宮嵜麻子著、講談社現代新書・1320円=朝日新聞2024年3月16日掲載