「ややこしい子どもだった」と苦笑いする。幼稚園入園日から小学校の卒業式まで9年間、一言もしゃべらないで通した。家では話したが、外へ一歩出ると「覆面レスラー」に変身するみたいに。
口は閉ざし、心は開いて。筆談とジェスチャーでコミュニケーションをとった。友だちはいっぱいいた。思えば、それが原点だ。「友だちが話すのを黙って見ていて、観察グセがついた。何でも一歩引いて客観的に見るようになった気がする」
人は場面で役を演じるんだと実感したのも子どものころの経験から。同級生、先生、家族らそこにいる人によって表情も言葉も変える。「だれでも無意識のうちに自分をキャラクターづけていますよね」。他人と自分の観察者というわけだ。
繁華街やスーパーなど様々な場所でまわりをじっと観察する。抱いた違和感から、翻って「自分はどうなんやろ」と自意識をつづったエッセーや詩をまとめたのが本作だ。
SNS時代、こぞって人は発信する。自分を認めてほしいと。「その裏側には自分が認めたくないものがあるはず。なぜ、あの人の方が評価されているのかという嫉妬とか。結局、人に起因するんですよね」
京都で育ち、10年ほど都心で雑誌編集者や書店員をした。京都に帰りガケ書房を20年前に開いた。車が壁にめりこんだインパクトある外観の名物書店だった。2015年に移転し、改名して開いたのがホホホ座。「本が多いお土産屋」だ。普段着でふらっと入れる公園のような所でありたい。この場に「一票投じるように」何か買ってくれたらと願う。
居酒屋で隣り合った人に「本が好きだなんて賢いなあ」と言われると「ちゃうよ」と。本を読むのは勉強のためではない。楽しいから。「本は娯楽。声を大にして言いたい」(文・河合真美江 写真・MIKIKO)=朝日新聞2024年3月23日掲載