1. HOME
  2. コラム
  3. コミック・セレクト
  4. タカノンノ「推し殺す」 まぜるな危険、伝わるマンガ愛

タカノンノ「推し殺す」 まぜるな危険、伝わるマンガ愛

新潮社 770円

 「推し」といっても対象はアイドルではなく漫画家だ。高2で「大森卓(おおもりすぐる)」の名でデビューし、単行本も上梓(じょうし)した小松悠(こまつゆう)。しかし、ネットの誹謗(ひぼう)中傷に心折られ描けなくなってしまう。そんな彼が大学入学早々に出会ったプロ漫画家志望の三秋縁(みあきゆかり)は、大森卓の狂信的ファンだった。彼女の作品はまるで自分の劣化コピーのようで、小松は思わず激しくダメ出し。彼が「推し」本人であることを知らない三秋は、そこで「私の担当編集者になって」「一緒に大森卓を殺そ?」と持ちかける。

 作品を人に見られて評価されるのが怖くなった休筆漫画家と、怖いもの知らずで承認欲求の塊のような漫画家志望者。「まぜるな危険」という感じの組み合わせに、まずシビれる。歪(ゆが)んではいるが、マンガに懸ける三秋の情熱は本物だ。作家として瀕死(ひんし)の自分に彼女がとどめを刺してくれるだろうかと願う小松も、その熱に煽(あお)られる。

 今や百花繚乱(りょうらん)の漫画家マンガの最新鋭。SNS時代ならではの変化もあるが、「評価されること」への覚悟が必要な点は変わらない。漫研や他サークルの先輩たちも含めたオタク系大学生の“こじらせ青春群像劇”としても楽しい。そして何より作者自身のマンガ愛が、ひしひしと伝わってくる。=朝日新聞2024年4月6日掲載