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環境問題を身近に 関心から行動に踏み出すために 金森有子

川底が露出し、日照りで地面がひび割れする嘉陵江=2022年8月、中国・重慶市

 環境問題に関する意識調査が多く行われている。「環境問題に関心がある」とする人が多いという結果も目立つが、彼らがゴミ削減や省エネ対策に熱心だとは限らない。環境問題は、人と環境、社会と環境との間に生じる。それにもかかわらず、暮らしに関わる課題と認識できず、環境問題への関心が自らの判断や行動につながらないことも多いのではないか。少しでも身近な問題として捉えてもらえるような3冊を紹介したい。

ゴミとはなにか

 『グッズとバッズの経済学(第2版)』(細田衛士著、東洋経済新報社・2970円)は、環境経済学者による廃棄物に関するトピックを一般向けに解説した良書である。グッズとは通常の市場取引で値段が付くもののことで、バッズとはお金をかけて処理するものを指すという。不要になったものを捨てればバッズになるが、ある人にとってはグッズである。経済学に詳しくなくても、私たちはこれをリサイクルショップや個人間取引を利用した売買で実践している。著者は、廃棄物の処理・再資源化を担う産業について経済分析の考えを採り入れることで、健全な資源循環社会を実現するための納得感のある説明をする。

 『食料危機 パンデミック、バッタ、食品ロス』(井出留美著、PHP新書・1045円)は、ジャーナリストによる食品ロス問題を多角的に捉えた一冊だ。著者は人々が食料不安に陥る要素として、紛争、経済の停滞・低迷、自然災害の三つを挙げる。さらに、気温上昇が作物の収量に与える影響、食品ロス、バイオ燃料などの話題を通じ、気候変化と食料生産の関係などを解説する。また、食料危機を回避するための行動を列挙した「アクション100」として、「できる範囲で、住んでいる近くで作られた食べ物を買う」などを挙げるが、これを気候変動対策として認識している人も多いかもしれない。「食料危機」という言葉は、飢餓や貧困といった世界規模の社会課題をイメージさせるかもしれないが、実は環境問題とも深く関係していることが分かる。食に関する身近な行動が、遠い国の貧困や気候変動に関係するという事実は「世界規模の問題なんて難しくて私には関係ない」という認識を改めるきっかけになるのでは。

未来を想像する

 人々が行動を変えられず、気候変動問題が解決されない先にはどのような世界が待っているのか。SF小説『未来省』(キム・スタンリー・ロビンスン著、瀬尾具実子訳、パーソナルメディア・3300円)は、経験したことのない未来を想像するのに役立つだろう。物語は、気温上昇の影響が顕在化したインドで、熱波により2千万人が亡くなるという衝撃的な場面から始まる。その直前、熱波の襲来を察知した人々は、国連に未来省という組織を発足させる。今を生きる私たちと将来世代の権利、あらゆる生物の保護のために人々は頭を悩ませるが……。何とも気味が悪いのが、遠い将来の話ではなく、2025年の設定であることだ。毎年のように酷暑の被害が報告されている現実を前に、この小説には作り話と割り切って読めない生々しさを感じる。解説でコンピューター科学者の坂村健氏は、これらの問題は「科学技術と理性だけでは解決できない」と指摘している。気候変動問題は様々な思惑が入り乱れ、解決が非常に難しい問題であることを、ずばり言い当てている。

 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書は、既存の手段や技術で温室効果ガスの大幅削減が可能であると示した。しかし、現実には技術の普及に難がある等の理由で実現に至っていない。対策が進まなければ、私たちはこの小説に示された世界を経験することになるのだろうか。そのような世界をどう生き抜いていくのか。考えさせられる。=朝日新聞2024年4月27日掲載