林の中を進む黒いヘビのような物体。無数のクモやムカデのような生物も室内や人体に忍び寄り、暗い色調で描かれた絵には気味悪さが漂う。これは戦争の影なのか。
原書はポルトガルの父子が2018年に出版した絵本だ。文は詩人で戯曲家の父が、絵は画家の息子が手がけた。ボローニャ国際絵本原画展で入選するなど世界で18の賞を受け、少なくとも15言語に翻訳。今年4月に邦訳された。対象は「中学生以上」という。
文はすべて「戦争は、」に続き、「痛みの機械だ」「物語を語れたことがない」と端的につづられる。戦争とは何なのか。一つ一つが詩的な美しさを帯びるが、脳内には重く響きわたる。
ウクライナやガザの戦禍が続くいま、様々な想像を促してくれる。(伊藤宏樹)=朝日新聞2024年6月1日掲載