NHKに世界のトレイルランやロードレースを紹介する番組があり、たまに観(み)ている。何日もかけて山の中を駆け抜けたり、高山病になりそうな山を自転車で登るなど、過酷なレースがあちこちで行(おこ)なわれていて、人気があるらしい。自分には挑戦する気力も体力もないけれど、完走した選手たちの充実した表情を見ていると、うらやましい気持ちになる。
「RUN+TRAIL」はトレイルランの専門誌だ。最新号は4月に富士山麓(さんろく)で行われた〈Mt.FUJI100〉の特集で、100という数字は、100マイルを意味するそう。つまり山の中でマラソンの4倍もの距離を走るというのだから恐れ入る。
誌面からはその過酷さが伝わってくる、と言いたいところだが、むしろなんだか楽しげだ。チャンピオンや入賞者に限らず、完走した多くの人々の笑顔がインタビューとともに掲載され、それぞれにこのレースにかける思いがあることがわかる。トレイルランナーにとって、100マイルレースに出ることはひとつの憧れでもあるらしい。よく見ると988位とか1111位の人まで載っていて、参加者への強いリスペクトが感じられた。
選手だけではない。運営スタッフやボランティアも相当な数になるようで、そういった人たちにもページが割かれ、みんなみんな楽しそうなのが印象的だ。
〈Mt.FUJI100〉のほかにも、広島や神戸の大会のレポートがあり、海外からの参加者も多いところを見ると、世界規模で人気のあるスポーツであることがわかる。そのうちオリンピック種目になったりするかもしれない。
巻末に、ステージ4のガンとの闘病生活を経てトレイルランナーになった女性の記事があり、80キロのレースを完走したとあった。それを読んで自分がなぜこのスポーツに惹(ひ)かれるのか分かった気がした。言葉にすると陳腐だけれど、トレイルランは人生を感じさせるスポーツなのである。というか、人生そのものにさえ思えるのだ。=朝日新聞2024年6月1日掲載