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幕末の志士にも影響を与えた歴史叙述の魅力に迫る「頼山陽 詩魂と史眼」 佐藤雄基の新書速報

  1. 『頼山陽(らいさんよう) 詩魂と史眼』 揖斐高(いびたかし)著 岩波新書 1232円
  2. 『隠された聖徳太子 近現代日本の偽史とオカルト文化』 オリオン・クラウタウ著 ちくま新書 1012円

 歴史は「物語」でもある。正確さとともに、どう魅力的に「書く」のかが重要だ。江戸時代後半に書かれた幕末・明治のベストセラーで、楠木正成など忠臣の姿を力強く描いた歴史書『日本外史』。現在でも通俗的な歴史像は同書に由来することが多い。その作者頼山陽の実像に迫るのが(1)だ。江戸期の漢文学研究の大家である著者が、山陽の漢詩文を丁寧に読み解きながら、人物像と歴史叙述の魅力に迫る。時代の奔流の中で、英雄的個人がどのような選択をしたのか、その瞬間を躍動的に描いた山陽。史実の誤りも多かった。だが、過去の人物描写を通して「今」あるべき行動を示そうとする力強い叙述は、幕末の志士にも大きな影響を与えた。

 一方、日本史上最も魅力的に「書かれ」てきた人物は飛鳥時代の聖徳太子だろう。(2)は、東北大学で日本宗教史を講じ、近代日本における前近代「仏教史」へのまなざしを探究してきた著者が、近現代の「表象としての聖徳太子」の変遷に取り組んだ一冊。冠位十二階や十七条憲法など新国家建設の事績を学校で習った人も多いだろう。だが、太子を異形の超能力者として描いた漫画家山岸凉子の代表作『日出処(ひいづるところ)の天子』を思い出す人もいるだろう。聖人君子の像のみならず、キリスト教、予言者など荒唐無稽なイメージが付加されてきた。そうしたオカルト的「偽史」は、学者の書く「歴史」と無関係ではなかったと著者は強調する。歴史記述は「今」を映し出すものだからだ。=朝日新聞2024年6月22日掲載