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栄枯盛衰を女性たちの目線から描きなおす「豊臣家の女たち」 佐藤雄基の新書速報!

  1. 『豊臣家の女たち』 福田千鶴著 岩波新書 1166円
  2. 『オーラル・ヒストリー入門』 佐藤信編 ちくま新書 1078円

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 歴史の中の「声」に耳を傾けるとはどういうことか。ヒントとなる2冊を紹介したい。

 日本近世史家による(1)は、豊臣秀吉・秀頼2代の栄枯盛衰を女性たちの目線から描きなおす。秀吉の妻(寧や茶々)について俗説を排するだけではなく、ほとんど知られてこなかった姉妹や養女、奥女中たちの存在も丁寧に掘り起こしている。「妻」の地位から脱落したのを不満として自ら秀吉のもとを去った織田信長の姪(めい)の姫路、また、大坂落城を覚悟して「そのうち御隙(おいとま)を願い出」たいと胸の内を伝えた女中の菊など、女性一人一人の内面が読み解かれ、それぞれの視点から、従来の教科書的な歴史像とは異なる豊臣像が見えてくる。織田・豊臣・徳川は女の縁で深く結びついており、案外と狭い世界の中で天下人が変遷していたことも面白い。

 手紙や回想などの文字史料から過去の人の声を探り出す(1)に対して、存命の個人の口から過去に関する語りを聞き取り、記録に残す営みはオーラル・ヒストリーと呼ばれる。現代日本政治や社会学など諸分野の中堅研究者たちによる(2)は、各分野の目的や特徴の違いに注意を促しながら、自分でも聞き取りをしたい読者に向けて、聞き手の立場から、聞き取りの準備や注意事項をまとめた実践的な入門書。著者の一人朴沙羅(ぱくさら)が述べるように、聞き手が理解しているつもりの事柄について、語り手は異なる理解の仕方を示してくる。その「ずれ」こそ、大切なヒントになるのだろう。=朝日新聞2025年11月1日掲載