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分断を招かない変革示す「なぜ男女格差はなくならないのか」 上村剛の新書速報!

  1. 『なぜ男女格差はなくならないのか』 田中世紀(せいき)著 講談社現代新書 1012円
  2. 『民度 分極化時代の日本の民主主義』 善教将大(ぜんきょうまさひろ)著 中公新書 1265円

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 分断がキーワードの現代日本。どう対処すべきか。2人の政治学者がヒントをくれた。

 日本はOECD諸国のなかでも特に男女の賃金格差が大きく、女性は男性の約8割しか稼げない。(1)はこの事実を起点に、日本社会に潜む性差を考える。女性として生まれると、幼少期から周囲の期待も少なく、無意識に差別を内面化し、社会的活躍を諦める。こうして能力の開花が妨げられる現状がある。これを是正するのは女性優遇策だが、現状「逆差別だ」と感情的に反発され、さらなる対立を生む。ではどうすべきか。誰もが尊重される社会のために、分断を招きやすい「男性/女性」という既存のカテゴリーを手放すべきだと著者は主張する。筆致も軽妙で、これまで差別について考えるのを敬遠してきた多くの人にこそ、入り口にして欲しい。

 (2)は日本人の民主主義意識を、政治学でいま流行している実験の手法も使って明らかにする。投票率の低さは意識の低さ、若者は政治的に無知だ、あんな政治家に投票した奴(やつ)は民度が低い――そんなよくある偏見が、データで反証されるさまは圧巻だ。問題はむしろ自分自身の党派的歪(ゆが)みかもしれない、と自省させられる。

 自分と異なる偏見や党派性が可視化されると、眉を顰(ひそ)めたくなるのが人間だ。それでも、民主主義の条件は「異なる他者の価値観を理解し、それを認め合う寛容性が涵養(かんよう)されていること」と著者は説く。そのぶれない信念こそ、これからの民主主義を築く。=朝日新聞2025年11月15日掲載