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「死んだ山田と教室」書評 青春描く熱量全開のデビュー作

評者: 小澤英実 / 朝⽇新聞掲載:2024年07月13日
死んだ山田と教室 著者:金子 玲介 出版社:講談社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784065348314
発売⽇: 2024/05/15
サイズ: 13.4×18.8cm/304p

「死んだ山田と教室」 [著]金子玲介

 なんだなんだこの小説は。ふだん純文学や世界文学ばかり嗜(たしな)み、エンタメ小説(という区分けも無意味だが)にあまり乗れない自分に引け目を感じていたのだが、好きだと大声で叫びたい推し小説に出会えてしまった。
 題名がまずおかしい。だが、予想を裏切らないおかしい話だから安心してほしい。夏休みが終わる直前、穂木高2年E組の人気者の山田は、自動車事故で死んだ自分が教室のスピーカーに変わってしまっていることに気づいた――って、出だしからカフカの「変身」ばりにヘンテコなのだ。
 クラス愛が強すぎる山田の、くだらない会話を級友と続けたい一心が、彼を「永遠の16歳」ボディー(スピーカー)にしたのか。E組だけの秘密になった山田を呼ぶ合言葉は「おちんちん体操第二」。クラス一の秀才が「男子校なんだから、他のクラスの人がなんとなく『おちんちん体操』と口にしてしまう可能性」に危惧を抱き決まったもの。第一か第二かでモメる彼らはストイックなまでにくだらなく、その輝きがあまりにまぶしい。
 その輝きを支えるのが、テンポのいい会話文の間に地の文をはさむオリジナルな文体の技だ。笑いに全振りされた男子高生どうしの会話の応酬において、だれた間や遅いツッコミは死を意味する。山田の誕生日会の描写は、DJのミキシングを書き言葉でやってのけるかのような名人芸だ。
 山田の死の謎をめぐるミステリー風の仕掛けあり、男友だちの友情の絆には萌(も)え要素ありで、1クラス35名のキャラクターの書き分けも巧み。2年E組への愛が一番深いのは、じつは作者だ。
 くだらない笑いだけが癒やせる深い孤独にゆさぶられて辿(たど)りつく結末には、熱量全開のヤバすぎる展開が待っている。青春のいとおしさと移ろう時の残酷さ。それでも生きていかねばならない若者と、かつて若者だった者たちを全力で応援する、熱いデビュー作だ。
    ◇
かねこ・れいすけ 1993年生まれ。慶応大卒。本作で第65回メフィスト賞を受賞。