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カトリック司祭・米田彰男さん「イエスは四度笑った」インタビュー 人間臭い実像を読み解く

米田彰男さん

 フーテンの寅次郎の生き方と人を魅了する色気はイエスに似ている――反響を集めた『寅さんとイエス』から12年。イエスのユーモアと笑いという長年のテーマに挑んだ。

 「本のタイトルは意表をついてみた」と、いたずらっぽく語る。新約聖書の正典である四つの福音書にイエスの笑いがないことは、作家の椎名麟三らも指摘してきた。だが1970年代に発見されたグノーシス主義者による「ユダの福音書」では「笑った」が4カ所。異端とされた教義に基づけばイエスがミサを嘲笑したと読める場面もあるという。

 ただ、紙幅を割いたのは「大食漢の大酒飲み、取税人や罪人(つみびと)の仲間」と正典福音書が記すイエスの、ユーモアと隠れた笑いの読み解きのほうだ。明朗快活だから弱者に共感して笑みを浮かべたはずだし、社会悪への皮肉をこめ笑いもしただろう。情欲で女を見る者は心の中で姦淫(かんいん)しているとする戒めも、笑いながら言った可能性はないか?と。

 「イエスは人々ができもしないことを語りませんでした。理念でなく出来事から真実を語り、権威を持ち出さない。敬虔(けいけん)な完璧主義者が作った厳格イメージのために、歴史の中に生きた生身のイエスが捉えられていないのです」

 松山市生まれ。ドミニコ会創立の愛光学園に高校から進み、神父になろうと心に決めた。精神を病んだ友への周囲の態度に憤ったことが、原点の一つにあるという。だが「イエスをつかまえる」道は容易でない。5年ほど放浪し、神の存在をめぐって思索を重ねた。貧しい人々が暮らす地域で働いたことも。

 23歳で信州大に入り生化学を専攻、洗礼を受ける。カナダとスイスでの10年にわたる徹底的な聖書と神学の研究がイエスへの理解を深めた。その後、現在まで京都の聖トマス学院で教え、東京の清泉女子大でも教壇に立った。

 いま既成宗教は本当に苦しむ人々に届いていないと自戒し、本書でも戦争と平和の問題にふれる。そして信仰ありきではない、開かれた聖書読解と対話も呼びかける。

 「論争をふっかけてもらうのをいつも待っているんですよ。来るなら来いと(笑)」(文・藤生京子 写真・大野洋介)=朝日新聞2024年8月10日掲載

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