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全国14カ所を訪問し、人びとの声と実践を受け継ぐ「戦争ミュージアム」 高谷幸の新書速報

  1. 『戦争ミュージアム 記憶の回路をつなぐ』 梯久美子著 岩波新書 1012円
  2. 『アフリカ哲学全史』 河野哲也著 ちくま新書 1430円

 アジア・太平洋戦争の終結から79年、戦争を体験した世代はますます減少している。一方で、「戦争を伝える、平和のための資料館や美術館」すなわち戦争ミュージアムが各地で展開されてきた。(1)は、著者による全国14カ所の戦争ミュージアム訪問記だ。戦時中の国による若者の扱いを映し出す「予科練平和記念館」や「周南市回天記念館」、被害と加害の記憶を紡ぐ「満蒙開拓平和記念館」など各ミュージアムは、土地の歴史と結びついた戦争の姿を伝え、過去との対話の場を創り出してきた。「もの」や個人の記録、語りなど戦争の記憶の仕方にも着目する本書は、それらに刻まれた人びとの声と実践を受け継ぐ旅へと読者を誘う。

 戦争だけでなく、人びとが引き起こしてきた暴力にどのように向き合い、よりよい世界をつくるのか。近世以降、奴隷貿易から植民地支配へと筆舌に尽くし難い暴力を被ってきたアフリカでは、哲学もまた、その歴史との格闘のなかで営まれてきた。(2)は、日本ではこれまでほとんど研究されてこなかったアフリカ哲学を打ち立てるとともに、その入門書としても編まれた。同哲学の、古代からの歴史をたどると同時に、人種主義などアクチュアルな課題に取り組む視点の紹介を通じて、西洋哲学の「普遍性」を問い直す。それは、その「西洋」を鑑(かがみ)として近代化を進め、他国を侵略、その先に破局を迎えた歴史をもつ日本にとっても無視できない試みであるはずだ。=朝日新聞2024年8月17日掲載