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リテラシーを考える 社会変化にあわせた工夫と挑戦 吉川浩満

歌人の俵万智さん(右)を迎えて開かれた短歌イベント「俵万智×AI 恋の歌会」。AIが瞬時に生成した短歌が会場の画面にずらりと並んだ=2022年

 読み書き能力(リテラシー)に関する本が、いままた相次ぎ出版され話題を集めている。社会の変化や技術の進展に応じたアップデートが模索されているのだろう。

 次のような相談を受けることも多い。仕事が忙しくなる一方で、読みたいもの・読むべきものも増えて困っている、どうしたらよいか、と。

 仕事を辞めればあっさり解決するかもしれないが、さすがに気軽にはおすすめしにくい。そこで提案したいのが、少ないなりの読書時間に合わせて本の読み方を変える、という方策である。

使い分けでいい

 その際に有用なのが、ブリタニカ百科事典の編纂(へんさん)に関わった二人の大学者M・J・アドラーとC・V・ドーレンによる『本を読む本』(外山滋比古ほか訳、講談社学術文庫・1177円)だ。本書は読書を四つのレベルに分けて解説する。語や文の意味を理解する初級読書、ざっと拾い読みする点検読書、徹底的に精読する分析読書、主題について複数の文献を関連付けながら読むシントピカル読書である。そして、これら四つの読書法を目的や都合に応じて使い分けることを推奨する。

 相談に乗っていると、本は通読・熟読するものだと思い込んでいる人が多いことに気づく。そうしないと罪悪感を覚えるという人までいる。しかし、つねに通読・熟読が必要とは限らない。拾い読みの点検読書で済ませてよい場合も多いはずである。それで空いた時間を分析読書やシントピカル読書にまわせばよい。ポイントは、複数の読書法を切り替えることで、読む速度や深度をある程度コントロールできるようになることである。本書にはそのためのノウハウが詰まっている。

 なお、現代社会では、文章だけでなく、データやグラフに関するリテラシーも欠かせない。日々提供される各種の統計データには、金銭や健康、政治といった重要トピックに関わるものが多いだけに、おろそかにすると痛い目にあう。

 作家ダレル・ハフの『統計でウソをつく法 数式を使わない統計学入門』(高木秀玄訳、講談社ブルーバックス・1012円)は、平均値と中央値、因果関係と相関関係といった統計リテラシーの基本をユーモアたっぷりに教えてくれる定番書だ。数字が苦手という人も挑戦してほしい。

スケジュールを

 書く方についてはどうか。これまで私が無数の人に推薦してきたのが、心理学者ポール・J・シルヴィアによる『できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか』(高橋さきの訳、講談社・1980円)だ。研究者に限らず、プレゼン資料や企画書など、文章を書く人すべてにおすすめする。

 本書が教えるのは、文才や修辞技法などよりも、まずはスケジュールを立てることがなにより重要だという真理である。本書を読むと、われわれがふだんいかに「書かないための言い訳」をしながらスケジュールを軽視しているのかを痛感させられる。あらゆる言い訳を撃退し、執筆を前に進めるための工夫を伝授してくれるのが本書である。

 ところで、文章の作成といえば、話題の生成AIに触れないわけにはいかない。関連書は多いが、ここでは物理学者スティーヴン・ウルフラムによる『ChatGPTの頭の中』(稲葉通将監訳・高橋聡訳、ハヤカワ新書・1012円)を挙げたい。生成AIが依拠する理論やモデルの要点を手際よく教えてくれる。

 私は、人間とAIの関係を成熟させるためにも、基本的人権を侵害しない範囲でなら生成AIを積極的に使っていきたいと考えている。とはいえ、現状の品質水準では欠陥やリスクが多いことも周知の通りだ。落とし穴にはまらないために、本書で基本原理を押さえておきたい。=朝日新聞2024年8月24日掲載