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〈オススメ〉杉本秀太郎〈著〉「魂の花びら、思索の文様」

 「京都が都会から田舎へと衰退した」。無秩序な近代化をこう難じ、大河ドラマでも注目の「枕草子」も「手応え弱く、器量とぼしく」と記す。

 こんなことを書けてしまった、仏文学者で名随筆家の杉本秀太郎さん(1931~2015)。文芸賞受賞関連のものなど、文学や美術、音楽についてつづった28編を集めた詞華集は、ページを繰りながら、その筆の鋭さに背筋が伸びてゆく。

 鋭いのみならず、浅井忠の油彩画がガラスケース内に無粋に収まるさまから、伊東静雄の詩へと筆が自在に及ぶ。

 そして生涯を過ごした京都への思い。町の乱れは、「洛中洛外図」の金雲が名所のみに注目させてしまったからでは、という仮説に、発想の大胆さを思う。今のオーバーツーリズムを知ったら、お嘆きはいかばかりだろう。=四明書院・3300円(編集委員・大西若人)=朝日新聞2024年8月24日掲載