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シャロン・ジョーンズ「書いたら燃やせ」 「共有しない」をあえて勧める

 全世界で350万部突破の大ベストセラーと聞いて、どんな感動的な小説かと思って開いたら……そこにあるのは空欄でした。「書いたら燃やせ」は、プライベートな質問に対し答えを書くうちに、自分自身を発見できる本。「自分の性格を6つのことばで表すと……」「未来はこうなっていてほしい」「死ぬまでにしたいこと」という正統派の質問から「誰にも見られていないときにすること」「わたしのいちばん暗い秘密」といった答えにくい項目も。今までやってみた冒険を選ぶ中には「ドラッグをやった」「何かを盗んだ」「ノーパンででかけた」などの項目が。どこまで自分に正直になれるか試されます。「もっと報われてもいいと思う人は?」という質問には、つい「自分」と、本音を記入。秘密を打ち明けるうちに、本に情が移って、燃やすなんてできなくなります。でも、やはり人に見られたくない内容なので、この本を家に残したまま死ねない、と生きる原動力にもなりそうです。

 SNSでプライベートをシェアする時代に、あえて「何も共有しない」ことを勧める本が大ヒット。SNSに映え写真を投稿し、自分を盛るうちに、本当の自分を見失いかけている人も多いのでしょう。また、人に言えない過去など、今の時代、SNSに書いたら炎上してしまいます。この本には、自分をいくらでもさらけ出せて、炎上することもなく、自分で燃やすかどうか決められます。スマホやPCの入力が主流で、文字を書く行為自体久しぶりという人もいるでしょう。手書きは脳の活性化にもつながります。とにかく現代人が失いかけているものがこの本には詰まっているのです。そして、誰もが一冊の本の主人公であるという自信が、SNSを見て下がってしまった自己肯定感を蘇(よみがえ)らせてくれるのでしょう。=朝日新聞2024年9月7日掲載

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 白浦灯訳。海と月社・1320円。24年3月刊。6刷1万4500部。著者は英国のライターで、14年の刊行後、25以上の国で出版された。「20~30代の女性に注目された。理想の人生設計にも一役買うのでは」と担当者。