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差別是正措置の歴史をたどる「アファーマティブ・アクション」 高谷幸の新書速報

  1. 『アファーマティブ・アクション』 南川文里(ふみのり)著 中公新書 968円
  2. 『検証 大阪維新の会 「財政ポピュリズム」の正体』 吉弘憲介著 ちくま新書 968円

 雇用や昇進、大学入試における合格者が特定の人種やジェンダーに歴史的に偏ってきたという状況は多くの社会で見られる。こうした構造的差別を取り除き、「差別のない社会」を実現するにはどうすればいいだろうか。(1)は、公民権運動後のアメリカで導入された「アファーマティブ・アクション」(AA)すなわち「積極的差別是正措置」の歴史をたどる。導入後、AAは「逆差別」「優遇措置」などの批判にさらされ、「多様性の実現」のためという論理へと変容してきた。何が公正かをめぐり試行錯誤を続けるアメリカ社会の姿を描くとともに、構造的差別を是正することの困難を浮き彫りにする。

 日本における構造的差別の是正として、近年はジェンダーや障害者差別への取り組みが注目されるが、歴史的には部落差別への対応もあった。特に、大阪をはじめ関西地域では部落差別の解消を目指す地域的な取り組みが実施されてきた。そうした状況に影響を与えたのが大阪維新の会である。(2)は、会の政策の特徴を、既存の配分を既得権益と批判し、均衡財政主義を前提に、個人の頭割りに配り直すことで支持を調達する点に見いだし、「財政ポピュリズム」と名づける。そこでは、マイノリティにたいする配慮も「既得権益」と見なされがちだ。

 歴史的に不利益を被ってきた特定の社会集団にたいする構造的差別をどのように是正するのか、今なお多くの社会に課せられた課題である。=朝日新聞2024年9月28日掲載