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「孤独への道は愛で敷き詰められている」書評 怒れ、生きていてくれ、柳田!

評者: 吉田伸子 / 朝⽇新聞掲載:2024年10月05日
孤独への道は愛で敷き詰められている (単行本 --) 著者:西村 亨 出版社:筑摩書房 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784480805201
発売⽇: 2024/09/02
サイズ: 18.8×1.8cm/160p

「孤独への道は愛で敷き詰められている」 [著]西村亨

 第39回太宰治賞受賞作『自分以外全員他人』でデビューした作者の新刊である。主人公は同じくアラフォーの柳田譲で、時系列としては前日譚(たん)となる。
 元日の夜、東京・高円寺の焼肉屋。柳田は姉の紹介で知り合った関根奈々と一緒にいる。ひと月前からLINEでやり取りはしていたものの、実際に会うのは初めてだ。
 もう、この彼女とのシーンから、うわぁぁぁぁっ、となる。おい、関根!と思うし、おい、柳田!と思う。
 柳田の見た目が、送っていた写メと隔たりがあったとはいえ、思い描いていたキャラと違っていたとはいえ、関根の態度はひどすぎる。その関根の態度を淡々と分析する柳田も柳田だ。そこは怒れよ、柳田。
 とはいえ、関根と焼肉屋にいる間に、読者には柳田のキャラと彼の背景が伝えられているので、彼が怒らないのではなく、自分のせいだと冷静に受け止めている、ということもわかる。
 関根奈々、かつての同棲(どうせい)相手で、三年前に別れた夕子、北海道で農作業ヘルパーとして出会った佐野玉絵。この三人の女性とのかかわりを中心に、本書は語られていく。
 「ずっと何かに抑え込まれているみたいに、人の目ばかり気にして生きていた」、そんな柳田の心をほぐしてくれ「生きる楽しさを教えてくれた唯一の人」が夕子だったのに、大切だったからこそ、柳田は夕子を手放していた。彼女を幸せにする自信がなかったからだ。そこは手放しちゃだめだろ、柳田。
 と、こうやって書くと、どんだけ重くて暗い話だよ、と思うかもしれないが、大丈夫。思わず噴き出してしまう箇所(尾崎豊のくだりとか)がちりばめられていて、どんよりしすぎない、不思議な読み心地がある。
 本当は誰もが孤独で恥ずかしい。そんな言葉は柳田の前では空疎だ。でも、柳田、生きてくれ。生きていてくれ。祈る気持ちで、そう思った。
    ◇
にしむら・りょう 1977年生まれ。鹿児島県立鹿児島水産高校卒業。23年、第74回南日本文化賞奨励賞を受賞。