- 『日本漢字全史』 沖森卓也著 ちくま新書 1320円
- 『味の世界史 香辛料から砂糖、うま味調味料まで』 玉木俊明著 SB新書 1045円
私たちが普段使う漢字は、中国で生まれた。日本語学の大家による(1)は、まだ仮名のない時代に、古代人が日本語を漢字で表記しようと試行錯誤した様子から書き起こし、現代に至るまでの日本人・日本語と漢字との関係を描いた通史である。漢字に和語をあてる「訓」という工夫が日本の独創ではなく、古代朝鮮半島の漢文・漢字受容に起源をもつなど、目から鱗(うろこ)の指摘が多い。中国からの漢字・漢語の流入が古代だけの現象ではなく、前近代を通じて続いてきたことを具体的に跡づけた点も重要。「吃驚(きっきょう)」のように江戸後期に日本に広まった近世中国語の漢語も多いというから吃驚(びっくり)だ。漢字を介して日本は東アジアとずっとつながってきた。
日頃の食事に不可欠な味付けにも歴史がある。西洋経済史家による(2)は、地球上の気候区の多様性から筆を起こし、各地特有の産物が貿易によって広がり、現代人の生活を支える食文化を生み出すに至る世界史を描く。古代以来の香辛料、近代世界の形成を支えた砂糖、第2次産業革命の所産で、現代の地球上の人口を支える人工的なうま味調味料と食品添加物、これら三つの「味」が軸となる。食文化は各地の個性だと思われがちだが、韓国料理のキムチが現在の姿となったのは、南米大陸原産の唐辛子が使われた18世紀以降であるように、多様性と交流こそが個性を際立たせてきた。各地に起源をもつ「味」を日々楽しみながら、地球上の人々は互いにつながっているのだ。=朝日新聞2024年12月7日掲載