「絵の中のどろぼう」
ある画家が描いた大きな1枚の絵。1人のどろぼうが「しめしめ、ここなら見つからないだろう」とその絵の中にかくれました。大胆にも絵の中と外とを行き来するどろぼう。違和感を覚え気味悪がった持ち主は絵を手放し、どろぼうのかくれた絵は、様々な場所に旅立ちます。行き着く先には、いったい何が待ち受けているのでしょう。
この不思議なお話は、シンガー・ソングライターの友部正人さんと、絵本作家スズキコージさんの異色のコラボによって1983年に生まれました。長らく品切れでしたが、待望の復刊となりました。
スズキコージさんの絵本にはめずらしいモノクロの絵が、普段のカラフルでエネルギッシュな作風とは異なり、幻想的で少しミステリアスな雰囲気を醸し出しています。
奇妙だけれどもロマンチックな空気をまとった物語。まるで小さなのぞき穴から、こっそりと物語の秘密の一端を垣間見ているような、不思議でドキドキする感覚におちいります。自由を夢見るどろぼうの姿が、どこか切なく心に残ります。(丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん)
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友部正人作、スズキコージ絵、架空社、1650円、小学1年から
「カフェ・スノードーム」
ふだんは見つけることができないが、その場所を必要とする人には見つけることができるふしぎな建物、それがカフェ・スノードームです。妹とけんかをして母親にしかられた萌花(もえか)は不公平な扱いに抗議をして家を出ます。どこへ行こうかと考えながら歩いていると壁一面がツタで覆われた古い家が現れました。そこにはまるまると太っているタマルさんが住んでいて、お茶を出してくれました。そのお茶を飲んだらふしぎなことが起こって……。美しい文と幻想的な絵が印象に残る連作短編集。(ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん)
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石井睦美文、杉本さなえ絵、アリス館、1650円、小学校高学年から
「空はみんなのもの」
子どもがひとり「ふしぎ」に思うことを問いかけます。「空って みんなの空だよね」。誰の目にも映るどこまでも広い空。子どもも王さまもどんなに貧しい人にも、空は尽きず同じだけある。だのになぜ?
20世紀を代表するイタリアの児童文学作家が約60年前に書いた詩を、今の日本で絵本化。詩の呼吸を生かす場面割り。抜ける空の風景が、遠くで生きる人の営みや戦いを想像させます。
なぜ大地は「さかいめだらけ」なんだろう。国境も時代も超えてつながる空に託した表現に、祈りがこもっています。(絵本評論家 広松由希子さん)
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ジャンニ・ロダーリ文、荒井良二絵、関口英子訳、ほるぷ出版、1870円、3、4歳から=朝日新聞2025年1月25日掲載
