「コミック・ヘブンへようこそ」書評 作家が小説に書かされた小説も

ISBN: 9784794974471
発売⽇: 2024/11/27
サイズ: 18.6×12.8cm/192p
コミック・ヘブンへようこそ」 [著]パク・リョン [絵]チェ・サンホ
9編の短編小説に15点の挿絵が挿入されているのが本書の魅力でもあるが、挿絵は美術的に水準の高いものではないが、そこがいい。稚拙でたどたどしく自信がなさそうだがソフィスティケイトされた色彩。じっくり見せようとするが、じっくり見る絵でもない。
でも、何かひっかかる。そして上手ではないが、上手な絵として見てあげようとする優しい気分になる。本来、美術家は無視する絵だけれど、どこかに絵の原点が見え隠れするので、あえて僕は紹介しているのである。本来の美術作品ならこんな情緒的な絵は受け入れるべきではない。
さて、本書の短編に移るが、短編の中でも特に短い「ミニョン」という無視してもいいような変な作品に僕は引っかかってしまった。
女性が目を醒(さ)ますと病院のベッドの中。なぜここにいるのか理解できない。事故? 病気? でも元気。だけど点滴の針が腕に刺さっている。
お母さんが心配して駆けつけて、「ミニョン!」と声をかけて彼女を抱きしめるが、「私はミニョンではない」。第一、彼女の母は何年も前に死んでいる。話に出るチャン君という人も知らない。
「私は自分が何者であるかはわかります。決して頭がおかしくなったわけではありません」
そうなるとおかしいのはこの小説の作家である。ここで私画家の創作について意見を述べさせていただきます。
画家の私はキャンバスの前に向かう時、自分が何をしたいのかということがわからないまま立ちます。作品の意味も目的も全てはずして、無心にキャンバスの前に立ちます。そしてその時の生理と気分と空気を頼りに身体を絵に預けます。そしてこんなのができちゃいましたと言う。
この小説はそんな作品で、作家は小説に書かされた結果の小説です。作品は時には作者を超越して自力が他力の下僕になった時傑作が生まれる。
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Park Seolyeon 1989年生まれ。韓国の作家。著書に『シャーリー・クラブ』など。Choi Sanho 韓国の画家。