「クラウディオ・アバド」書評 精妙な音楽づくり 出色の評伝

ISBN: 9784393936122
発売⽇: 2025/01/20
サイズ: 19.5×2.6cm/354p
「クラウディオ・アバド」 [著]ヴォルフガング・シュライバー
若い頃、アバド指揮のCDをよく聴いた。ヴェルディ演奏の金字塔「シモン・ボッカネグラ」、生気潑溂(はつらつ)としたロッシーニ序曲集、ピレシュやグルダらと組んだモーツァルトのピアノ協奏曲。どれも明快で理知的な音楽づくりから、のびやかで豊かな歌が深く響く演奏であり、その洗練されたセンスは比類がない。お高くとまった気取りとは無縁の、軽快で機能的で、かつ奥行きのある多彩な響きを丹念に手づくりする――それはクラシック音楽の「静かな革命」と呼ぶにふさわしい。
そのアバドの人生を再現した本書は、達意の訳文も含め、音楽家の評伝としては近年出色の一冊である。もともと、詩に強い関心をもち、内向的で寡黙であった彼は、カラヤンのような独裁者的な指揮者であることを望まず「自己抑制と反権威主義」を貫いた。楽団の演奏家たちが「お互い聴きあうこと」に根ざした、彼の精妙な室内楽的音楽づくりは、まさにこの控えめなエレガンスから生み出されたのだ。
その一方、イタリアの反ファシズム運動を背景とするアバドは、音楽を骨董(こっとう)品にすることを拒み、盟友のルイジ・ノーノやポリーニとともに、音楽と政治が切り結ぶ地点を探究した――しかも、音楽の内発的な力や、街の歴史的な奥行きを決して犠牲にすることなく。この最大限の注意深さが、オペラから現代音楽までを旅しながら、各地でユースオーケストラの設立に尽くした彼の活動の源になった。本書はその長い軌跡を、いたずらに神格化せずスマートに描いている。
音楽とは魂の栖(すみか)である。そこではさまざまな矛盾する感情が、無限の響きをともなって再創造される。アバドはベルリン・フィルの首席指揮者になってからも、山上の古い農家で聴く雪の音に魅せられていた。この自然の吐息のような静寂を含んだ、アバドのさっそうとした演奏の記録は、われわれに自らの栖を探す力を与えるだろう。
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Wolfgang Schreiber 1939年生まれ。ドイツの音楽批評家。著書に伝記『グスタフ・マーラー』など。