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石沢麻依さん「かりそめの星巡り」インタビュー 著者が見えないエッセー

石沢麻依さん

 『貝に続く場所にて』が芥川賞を受賞して3年半。新聞雑誌への寄稿や美術評を収める初エッセー集を出した。

 ドイツ・ハンブルクの寒さに、故郷の仙台と同じ「水の気配」を感じた。いま暮らす中東部の街イェーナでは1世紀ほど前に開館したプラネタリウムを訪れ、幼い頃読んだ星座図鑑を思い出す。あるいは他者の歴史の記憶への尊重を欠いた風潮に、「見えない壁」の存在を知る。

 静謐(せいひつ)という語が似合う筆致で日常が記されていく。小説や絵画が引かれた情景描写は細やかな色あいも美しい。

 「著者はどこにいるの?というスタンスで書きました。『ウォーリーをさがせ!』のように」。自分をできるだけ隠し、フィクションにすらしたかったと語る。

 お手本は須賀敦子のエッセーだという。路地裏へさっと曲がった彼女の影がキリコの絵のように伸びて、追いかけるといない。でも柔らかな笑い声が聞こえる――。そんなスタイルにあこがれてきた。

 もう一つ、2年半前に出産した経験も大きい。リビングでパソコンを広げ子育てに奮闘する現実を、そのまま書きたくはない。「自分を引き離す」こと。自分を意識しながらいかに忘れるか。主観と客観を重ね、視点を広げて見ることに心を砕いた。

 小説はデビュー作のあと1冊発表し、いま長編を含めて準備中。器用でないと自覚する。より多くの読者に受ける作品を目指すつもりもない。読者に近づくという言い方があるが、読者は「得体の知れぬ怖いもの」なのに、こう書けば満足でしょうと言わんばかりで傲慢(ごうまん)だと話す。

 「そもそも私、言葉を信用しないようにと思っています。言葉自体にトリックスターの面がある。狭い部屋で、机をはさんで互いにだますかどうかをにらみ合う。そんな感覚で書く」

 言葉を信じなくとも、理解でなく「対話」の相手がどこかにいるという希望はもつ。尊敬する作家たちが身を削ってきたように、「遠い透明な相手」に向けて書くと胸に刻む。現実と幻想、不在や分身、そして大きなテーマにも挑戦していくつもりだ。(文・藤生京子 写真・本人提供)=朝日新聞2025年02月22日掲載