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鄭執「ハリネズミ・モンテカルロ食人記・森の中の林」インタビュー 「新東北文学」人気を牽引

鄭執さん

 中国で「新東北文学」が注目を集めている。その人気を牽引(けんいん)している作家の代表格の一人だ。

 1987年に中国東北部の遼寧省瀋陽で生まれた。伯父と一緒にハリネズミの肉を食べたという「僕」が語り手となった冒頭の物語など、3作品を収めたこの本には東北の文化や歴史、風俗が色濃く反映されている。

 「GDP(国内総生産)の急上昇は永遠には続かない。経済が減速したとき、人間のエネルギーはどこに向かうのか。小説や映画といった文芸作品によって心を落ち着かせることに関心を持つのでしょう。東北はいち早くこの経験をしたのだと思います」

 中国では遼寧省と吉林省、黒竜江省を東北3省と言う。日本が傀儡(かいらい)国家をつくり、満州と呼ばれた地域だ。中国の計画経済時代には工業化が進んで発展したが、改革開放のあとは産業の転換が遅れた。

 人口減少が加速し、経済は振るわない――。現在の中国全体の不況を「先取り」したとも言える経験が、いまの新東北文学ブームにつながった。国有企業をリストラされたり、民間への転職を余儀なくされたり。東北で苦境に置かれた著者の親の世代にあたる人びとが登場する作品と中国の現在を、読者が重ね合わせているのだ。

 新東北文学の人気は、ドラマや映画による映像化とも切り離せないという。「ハリネズミ」の映画化の際には自ら脚本を担当した。
 自身の作品が支持される理由はなにか。「私はリズム感のある早い語りを好むので、それがいまの読者に合っているのかもしれません」。邦訳後の文章からも、リズム感やユーモアが存分に伝わる。

 東京、大阪、名古屋、京都などを訪れたことがある日本通だ。作品に続く4ページの「日本の読者のみなさんへ」というあとがきには「日本と浅からぬ縁(えにし)がある」とつづり、川端康成や三島由紀夫、芥川龍之介ら日本の作家から影響を受けたことを明かしている。ここには「小説を書く」ことへの思いと覚悟も記され、読み応えがある。(文・写真 金順姫)=朝日新聞2025年3月29日掲載