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ドロ・グローバス、ローズ・ブレイク「すばらしい展覧会をつくろう」 楽しく美術業界のしくみが理解できる

英国の絵本作家のドロ・グローバスとイラストレーターでアーティストのローズ・ブレイクの絵本には、ほかに『ぼくはアーティスト』もある。図版は本書の見開きページから

 21世紀も約4分の1が過ぎ、ますます目まぐるしく変化する社会同様、美術の世界もしくみや価値基準を日々更新している。女性や有色人種、地理的・文化的に欧米から遠い場所にも素晴らしいアーティストは大勢いる、という認識はいまや当たり前だ。新しい規範はしかし、古い価値観に隠れて、一般の人にはあまり知られていない。

 「展覧会」という美術表現の枠組みを、丁寧にわかりやすく描いた本書を読めば、子供も大人も楽しくアート・ワールドのしくみが理解できそうだ。そこではどういう人々が、どんなふうに、なにを大切にして働いているのかが、美しい絵と言葉で解説されている。

 すばらしい作品(アート)ではなく、すばらしい展覧会の絵本だというところが興味深い。芸術を世に送り出すには、それぞれが専門知識を持つたくさんの人の力が必要で、才能があれば有名になれるわけではないのだ。彫刻家のヴィオラのアシスタント、絵描きのセバスチャンを手伝う猫、完成した作品を梱包(こんぽう)する人、運ぶ人、展示の構成を考える人、壁や床に作品を設置する人、カタログを作る人、売る人、記録写真を撮る人……そして展示を鑑賞する人まで、誰一人として欠かせない。

 「アーティストであるということは、目のまえの世界の見かたをすこし変えてみるということです」という言葉が胸に響く。現代美術家であるさとうりささんの翻訳も素晴らしい。=朝日新聞2025年8月2日掲載