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ガクテンソク奥田修二さん「何者かになりたくて」インタビュー 「チャレンジ」よりも「やりたいことをやってみる」感覚で

ガクテンソクの奥田修二さん=有村蓮撮影

ツッコミの感覚が無意識のうちに文章に出る

――『何者かになりたくて』の刊行に至った経緯を教えてください。

 最初は「noteに書いているエッセイを本にしませんか?」という依頼をいただいたんです。自分としては、無料で書きためていたnoteが書籍になるなんて思ってもみなかったですね。

――noteを書き始めたきっかけは?

 もともと新しいものが好きで。noteも軽い気持ちで始めました。ほとんどの記事が無料だったのも「思いつきで書いているからお金を取るほどじゃない」と考えていたからです。暇つぶし的に書いていた部分もありますし。「どうせ誰も読まんやろ」と思っていました(笑)。

――noteから書籍に入れるエピソードはどのように選ばれたのですか?

 そこは編集さんにお任せしましたね。読んでもらって、「このエピソードをもう少しふくらませてください」といった提案をもらいながら進めました。もとのnoteの文量はその時々でバラバラだったので、長くなったものもあれば、逆に短くしたものもあります。自分ではどれにするか選べなかったと思うので、編集さんの視点で整えていただけて助かりました。

――noteの書籍化は奥田さんにとってチャレンジのひとつでしたか?

 僕、何事も「チャレンジ」って感覚がないんですよ。チャレンジっていうと成功とか失敗といった結果を意識してしまいますよね。でも、僕の場合は「やりたいことをやってみる」だけ。成果とかはあまり考えません。アラフォーの中堅漫才師になってから上京したのも、「THE SECOND~漫才トーナメント~」(以下、THE SECOND)に出場したのもそうです。

――そのことも詳しく書かれていて、書籍ではnoteの内容をふくらませていますね。

 最初は「そんなに書くことないかも」と思っていたくらいなんですが、長く書き続けるのは想像以上に労力が必要でした。そういえば、ひとりツッコミのような文体になっているとも言われます。舞台でもツッコミなので、その感覚が無意識のうちに文章に出てるのかな。

――奥田さんがふだん漫才コンビのツッコミだからだと思いますが、文章ものでひとりツッコミがあると読みやすいと気づきました。セリフ調の書き方も特徴的ですね。

 みんな日常でおかしなことがあれば心の中でつっこみますよね。それを僕の場合、「これ、言いたいな」って思うことがあれば、セリフ調にして文章にバンと入れた方が読者さんに読んでもらうきっかけになりやすいみたいなんです。構成はいつもしているネタ作りと似ているかもしれませんね。ネタも、ツカミ、盛り上げ、オチなど作るので、その経験も文章を書き連ねるときに活きたかもしれません。

何でもかんでも書きたくなってしまうタイプ

――本書の中で印象に残っているエピソードはありますか?

 上京して2週間くらい家がなかった話ですね。漫才1ステージのためだけに東京に来て、その日の夜には大阪に帰る生活をしていました。住むところがないのに通ってたんですよ、東京の劇場に(笑)。ただ、そういった日々があったからこそ、今こうして東京での仕事があるのかもしれません。

――特に書くのが大変だった部分はありましたか?

 M-1グランプリ(以下、M-1)の話です。M-1は芸歴15年まで出場できるので、15年分さかのぼって書いたんですけど、記憶をたどると「これもあったな」「あれも書こう」って、どんどん増えしまって、気づいたら長編になってました(笑)。もしかすると削るのが大変というより、全部書きたくなってしまうタイプかもしれません。

――お気に入りの章はありますか?

 どうでもいいことをわざわざ例えて伝えようとしている章です。例えば晩ご飯のラーメンの話題。自分でダラダラ書いているつもりだったんですけど、思いがけずオチがついたんですよ。「お、落ちたやん!」って書き終えた時テンション上がりました(笑)。ぜひ読んでみてほしいです。

無理に何者かにならなくても大丈夫

――読者の方からの反応は?

 SNSで「前向きになれました」とか「背中を押されました」といった感想をもらいます。特に高校生の方から、「部活を続けるか悩んでいたけど、この本を読んで決めれました」とメッセージをもらったときは驚きました。「いや、決め手はきみ自身の感受性やで?」って思いましたけど(笑)。嬉しかったですね。

――高校生にも文章で伝えることのできる作家という仕事をどう捉えていますか?

 僕の場合は「作家をやっている」というより「たまたま書かせてもらった」って感じなんです。ふだんの仕事とは違うから新鮮で楽しかったけど、これを本業にしている人たちは本当にすごいなと尊敬します。文章で表現するって、やっぱり難しい。

――この本のタイトル『何者かになりたくて』には、どんな思いが込められていますか?

「何者かになりたい」って、誰しもが持っている気持ちだと思うんです。でも、僕自身は今も何者かになれていませんし、悩んでる人に「それ、あるあるやで」って伝えたい。何者かになりたいのが自分だけじゃないと思えるだけで、少し楽になると思うんです。

 それに変化を求めるより、今がうまくいっているって思ってるなら、変えなくていいんですよ。でも今うまくいってない感じがするんやったら、動かないと絶対そのまま。僕の場合はどんどん変えて、いつもとりあえずの結論を出しているだけです。

 だから何者かになりたい気持ちがあるのは自然なことやけど、無理に変化して何者かにならなくても大丈夫。今踏ん張ってる人たちは、もう十分すごいですよ。

――THE SECOND優勝という大きな成果を経験した今も、そう思いますか?

 THE SECONDで優勝したことはありがたいし、確かに大きな出来事でした。でも、それで何者かになれたかといえば、正直わかりません。結局、次の日からまた舞台で漫才をするんですよ。小学校を卒業しても中学校が始まる、みたいな感覚です。

――今後、またエッセイや本を出すご予定は?

 エッセイはもうこれで最後かもしれないですね。自分の人生って、もう大きくは変わらない気がするので。例えば相方のよじょうとの関係について書くとしても、19ページくらいで終わりそうです(笑)。

――今後の活動予定を教えてください。

 今年はガクテンソク単独ライブツアーもありますし、ほかの芸人さんと一緒に番組をやらせていただくことになりました。楽しみにしていてください。