- 『ミケーネ文明 古代ギリシアの原像』 周藤(すとう)芳幸著 岩波新書 990円
- 『世界政治1 民主化と権威主義化』 岩崎正洋、松尾秀哉編 ちくま新書 1056円
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滅びた文明の実態を復元するのはとても難しい。その一つ、ミケーネ文明の入門書である(1)は、土器の分析、遺跡調査、線文字Bの解読、はてはエーゲ海の沈没船の発見など、今なお可能な復元は徹底的に試みるという迫力に満ちている。「ミケーネ文明の遺跡を訪ねる」章は、著者のガイドで遺跡調査の体験をしているかのような臨場感だ。有名なトロイア戦争の遺跡に関する新たな論争の紹介や、アルファベットの成立はホメロスの文字化のため、という説明など、古い理解を正してくれる記述も随所にみられる。古代ギリシア世界と、その影響下にある現代社会の原像を理解したい人は、必読だ。
(2)は、比較政治学の研究者が集結し、世界中の諸国家の現状を描く5巻シリーズの第1弾。本書では、民主主義が衰退している国家が論じられる。日本とも無縁ではないカンボジアの「進化する独裁」、民主制の後退から脱却できたエクアドル、南アフリカの一党優位体制の終焉(しゅうえん)、湾岸アラブ諸国の石油の富と移民、といった日頃入手しづらい情報が、各地域に密着してきた専門家から平易に語られる。不確かな情報が氾濫(はんらん)する今だからこそ、実に貴重だ。ポピュリズムや社会的分断など、多くの国が日本と類似の問題を有し、日本政治への警鐘にもなる。
私たちの文明もあるいは岐路にあるのかもしれないが、現状の正確な知識があってこそ、未来もよりよく変わる。世界政治の灯火になるシリーズの今後にも、注目だ。=朝日新聞2026年4月18日掲載