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「男女賃金格差の経済学」書評 数字から見える職場のバイアス

評者: 有田哲文 / 朝⽇新聞掲載:2025年08月09日
男女賃金格差の経済学 著者:大湾秀雄 出版社:日経BP 日本経済新聞出版 ジャンル:社会学

ISBN: 9784296118366
発売⽇: 2025/06/27
サイズ: 18.8×1.7cm/242p

「男女賃金格差の経済学」 [著]大湾秀雄

 2023年時点での国際比較によれば、フルタイムで働く日本の女性の賃金は男性より22%低く、欧米のどの国より格差が大きい。もちろん改善傾向にはあり、60年ごろには格差はなくなりそうだという。しかしそれでは遅すぎるというのが本書の出発点だ。
 経営者たちは言う。「(女性管理職の)候補者がいない」「女性は昇進に関心がない」。しかしそれは、職場に存在するバイアスがもたらした結果ではないか。労働経済学を専門とする著者は、実際の企業の例をもとに解きほぐしていく。
 どんなときに自分が成長したかを社員に回答させると、困難な仕事を任された機会をあげる人が多い。しかしそうした仕事が与えられる割合は、女性の方が低くなりがちだ。無理をさせてはいけないと上司は考えるのかもしれないが、結局は成長機会を奪い、昇進や賃金の差につながる。
 女性に比べて男性は自信過剰になりやすいとの傾向が、心理学的な実験で確認されている。これもまた賃金格差につながる可能性があるという。男性の方が高めの自己評価をしがちで、上司の評価もそれに引きずられる面があるからだ。他にも長時間労働に価値を置きすぎるなど、様々な要因が蓄積して格差が生じることを本書は明らかにする。
 つまりは男がいかにゲタをはいてきたかという分析であり、評者のような中高年男性には少々耳が痛い。それでも抵抗なく読めるのは、お説教臭さがなく、数字と研究結果でぐいぐい迫ってくるからだ。
 一つショッキングだったのは、企業がジェンダーバイアス解消の研修をしても、何の効果もない、または短期的な効果しかないという研究結果が出ていることだ。バイアスが強まることすらあるという。一度や二度の研修では洗い落とせない習慣的思考とどう向き合い、変えていくか。本書が示すデータの数々は、そのための武器になる。
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おおわん・ひでお 1964年生まれ。早稲田大教授(人事経済学、組織経済学、労働経済学)。『日本の人事を科学する』など。