インタビューを音声でも!
好書好日編集部がお送りするポッドキャスト「本好きの昼休み」で、小林エリカさんのインタビューを音声でお聴きいただけます。以下の記事はインタビューを要約・編集したものです。
どの子も特別な力、沈黙も貴い
――大人が子どもに人生相談をするという、ユニークな企画の本ですね。
大人になったら、悩みがなくなって何か教えを授けられる人間になれると思っていたんですけど、本当に悩みが尽きなくて。2016年に妊娠して出産したことで、子どもができたらものすごく賢くなって子どもに何か教え授けるんじゃないかと勝手にイメージしていたんですけど、真逆で悩みのるつぼと言いますか、何一つわからないという状態になりました。
仕事は続けられるだろうかとか、子育てはどうしたらいいんだろうかとか、あらゆる悩みにまみれていた時に「MilK MAGAZINE japon」編集部からご相談があって、この企画をやってみることにしました。
――雑誌・ウェブメディアの「MilK MAGAZINE japon」の連載は、どういった経緯でスタートしたのでしょうか?
間宮寧子(MilK MAGAZINE japon):ウェブサイトをリニューアルする時に、子どもをテーマにしながらも、読み物として大人が楽しめるコンテンツを作りたいと思っていました。小林さんに相談したところ、「子どもに大人の人生相談をする」という企画を提案してくださったんです。子どもをテーマにするエッセイや漫画ではなく、子どもを巻き込んで子どもにインタビューするという企画に、もう是非やりたいと思いました。
――7年間で102人のおこさまに取材されたとのこと。大変なご苦労もあったのではないですか?
私は大変だったことは1回もなくて、月1回の救いがやってきたという感じでした。毎月、大人の悩みを寄せてくださる方の悩みにも自分と共通するものが多くて、それを今月またひとつ解決してもらえると思うと毎月が楽しみで。気づいたら7年、8年経って、子どもが8歳になっていました。
本当に年齢とか全く関係なくて。どの方も一人ひとりすごく特別な力があって、すごく喋るのが上手で言葉達者な子もいれば、じっと黙ってしまう子もいますが、その沈黙もすごく尊いというか。その時は沈黙していても、後から絵本にまとめて送ってくださった方もいたりして。それぞれの素晴らしさがありました。
「全てを見透かされている」
――最初の取材ではどんな印象を受けましたか?
最初にRico(りこ)さんという方に相談をした時、最後に「なに? もっとこどもみたいにいうと思った?」と言われて、ぐさっときました。「全てを見透かされている」というか。子どもだから天真爛漫な答えをしてくれるんじゃないか、突飛な回答をしてくれるんじゃないかと、いろいろ構えて会いに行ったのに、そう切り返されて。
なるほど、子どもと大人というより、一人の人間として話し合うとこんなにすごいことが生まれるんだということを知った瞬間でした。
――実際に読んでみると、回答が本質を突いていて驚くことも多いですね。個人的に心に残った回答はありますか?
やっぱり「いまの仕事に意味を見出せない。でも子どももいて、お金は必要」という相談に対して、さきこさん、きぬこさん、ゆいこさんの3人のお答えが秀逸でした。「飲み会とか断れない」という悩みに「他に大事な何かがないってこと」と言われた時「そういうこと!」みたいな驚きがありますよね。
――小林さんにとっては、この企画はどんな意味を持つものになりましたか?
正直、今生き延びているのは、このおこさまたちのお答えがあったからだと思っています。子育てや仕事、年齢的なこと、家族のこととか、大変なこともあったけど、おこさまたちの答えを思い出せば「今日も生き延びられる」ということが本当に多くて。
大げさじゃなく、この言葉たちがなかったら、本当に生き延びられなかったかもしれないようなことも乗り越えられたと正直思います。なので、私にとっては実用書です。
同時に、本になってまとまった102人のおこさまたちを見ていくと、一人ひとりが尊い存在で、おこさまをよく知る方からの紹介文も読むと、その一人ひとりがまた誰かにとってすごく大切にされているのが伝わってきて。「こんなに誰かから大切に思われている人が、この同じ世界に存在している」と思うと胸が熱くなります。私にとっても宝物みたいな出会いと時間だったし、それが1冊になっているというだけで、すごく貴重な本になっています。
――102人、7~8年にわたって聞くと、これは人生相談という企画を離れて、東京近辺の現代の子どもたちの記録という意味でも貴重な資料のような気もします。
そう言っていただけて嬉しいです。もう人生の支えです。やっぱり悩んだ時に、「あ、こういう言葉があったな」とか、「こういう時間があったな」って思い返すだけで、生き延びられるって切実に思います。