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須藤功さん「山と獣」インタビュー 芸能に込めた「願い」撮る

須藤功さん

 半世紀にわたり、各地の人々の暮らしや、生活と結びついた郷土芸能を写真や文章で記録してきた。

 航空自衛隊時代に写真の技術を身につけた。たまたま出かけた奥三河の「花祭(はなまつり)」を機に、芸能に魅せられた。日本各地を調査し「旅する巨人」と呼ばれた民俗学者の宮本常一に相談し、宮本が所長だった「日本観光文化研究所(観文研)」の一員になった。

 北は礼文島から南は与那国島まで、ひと月の半分は調査の旅に出ることが多かった。電車とバス、あとは歩き。校舎の軒下で野宿をしたこともあった。撮った写真を宮本に見せると、厳しい目つきになった。「読める写真を撮れ」「芸術写真は撮るな」と言われた。「自分を主張するのではなく、語りかけてくる写真を撮れ、ということだったと思いますね」

 本書では全国各地の神楽や田楽(でんがく)、田遊(たあそび)などの祭りを写真と文章で詳述しつつ、背後にある焼き畑や稲作、養蚕などの山村の暮らしを紹介した。稲作が難しく焼き畑中心にもかかわらず、米に関わる祭りを残す地域が目立つという。「根底にはお米を作りたい、食べたいという望みがあって、それを芸能を通して神に祈ったのだろう」と、当時の暮らしに思いを馳(は)せる。

 畑を荒らす猪(いのしし)や鹿、熊が登場する芸能も多い。50回は足を運んだという宮崎県の銀鏡(しろみ)神楽では、猪狩りの様子が再現されている。「獣を捕るのは、肉が主食のヒエやアワをおいしくし、栄養にもなったため。そんな生活が芸能に刻まれている」

 宮本の没後、観文研から離れ、調査とともに、書籍の編集や出版を続けた。それらは『写真ものがたり 昭和の暮らし(全10巻)』『大絵馬ものがたり(全5巻)』などにまとめた。87歳になる今も、江戸後期の紀行家、菅江真澄が残した文章や絵図をもとに、当時の農村や漁村の生活を本にしたいと机に向かう。

 撮りためた写真は20万点以上。「300年後の人たちが、いまの私たちの暮らしを知るのに役に立てばいいやと、ひそかに思っているんです」(文・写真 山盛英司)=朝日新聞2025年9月6日掲載