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「ニュースが消える日」書評 記者が積み重ねる「対話」の効用

評者: 御厨貴 / 朝⽇新聞掲載:2025年09月27日
ニュースが消える日 著者:堂場 瞬一 出版社:講談社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784065401637
発売⽇: 2025/07/30
サイズ: 13.4×18.8cm/376p

「ニュースが消える日」 [著]堂場瞬一

 新聞は今や斜陽と称しても過言ではない。正直言って面白くない。しかし新聞は明治この方、日本の近代を表象してきた。そんな新聞と報道を、今の時代に真正面から位置づけようとしたのが本書である。社会小説、警察小説で活躍してきた著者は、新聞の危機が声高に叫ばれるまさに今の新聞報道をテーマに据えた。
 新聞記者出身の作家だからこそ、新聞界のあり方をフィクション化して描く筆運びにうならされる。しかも主人公を花形の「全国紙」の政治部や社会部ではなく整理部出身とし、その彼が東京から新幹線で1時間半ほどの実家に戻り、「地域紙」の編集長になるのだ。
 さらに書き下ろしの形を取ることによって、連載形式にありがちなダブりやしつこさを排し、スピード感あふれる展開となっている。記者は事件の真実に迫るために、いやでも同じ業界の記者とかけっこしながら、警察や官庁のこれは、という人間に仕掛け、仕掛けられ、記者としての腕を磨いていく。事実に迫るため人と会い、拒絶やはぐらかしの対話を繰り返す。そこでの対話はオーラル・ヒストリーの正反対をいき、言葉にならぬカンとツボを押さえるための動作の繰り返しだ。
 したがって、話のきっかけをつかむための小道具の設定が重要になる。たばこ、酒、コーヒーなどを出し合い、飲み合いながら話の糸を引く。取材対象との距離をとりながらのエピソードの重層的展開も見事だ。
 新聞界がほかの電子媒体やユーチューブに侵食されるとき、果たしてこの対話のシーンは残るのだろうか。いや、厳しかろう。かくて衰退し、廃業に追い込まれる新聞界の大勢の流れを肯定しつつも、著者はこうしたシーンを含め、人間くさいドラマの効用を失うまいと懸命である。市長襲撃事件の具体的な記述が、最近の日本政治の動向をきちんと押さえている。さて、著者の次なる一冊も期待したいものだ。
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どうば・しゅんいち 1963年生まれ。作家。『8年』で小説すばる新人賞。「ラストライン」シリーズ、『闇をわたる』など。