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助けてもらう練習 柴崎友香

 少し前に子宮筋腫の手術をした。外科手術を受けるのは初めてのことで不安もあったが、順調に回復して今は通常通りの生活に戻っている。

 同世代の知人には子宮筋腫で手術の経験者はけっこういて、摘出したら二キロあったとか、手術予定の数日前に輸血が必要なほど出血して救急車で運ばれたとか、怖い話も聞いていたが、入院や手術にあたって具体的に役立つことを教えてもらったりもしてとても助かった。腹腔鏡(ふくくうきょう)手術だったこともあり入院も短く済んだが、しばらくは痛みが続いた。

 手術の説明を受ける診察で、主治医の先生が「退院して二週間くらいは人の世話をしなくていいですから」と言ったとき、婦人科だなあ、と思った。ここで手術を受けるのは、家で誰かのケアをする役割や家事を担っている人が多いのだ。自分の体が大変なのに、誰かの世話を考えなければならない。入院の間に小さい子供の世話をどうするかまず心配する人や仕事は休めても家のことはと無理してしまう人も多いに違いない。

 私は、世話をする人はいなくて、世話をしてくれる人もいないという環境にある。身近に同じ病院で同じ手術を受けた人がいてアドバイスを聞いていたのだが、退院後の一人暮らし生活が大変とのことで、当分外に出なくてもいいように買いだめなどしておいて、それで乗り切れた。

 入院して手術すると伝えると、友人や仕事関係の人から、手伝うからなんでも言ってほしいという返事をもらった。予想より早く動けるようになったし、私は一人でなんでもやってしまって助けを遠慮してしまうほうなので、気持ちだけありがたく受け取った。だけど、何かお願いしてみたほうがよかったかなとも思う。これから誰かの助けが必要なことは増えそうだし、人に頼むことを経験したほうがいいかもしれない。そのほうが、自分が誰かを手助けするときにも参考になるかもしれない。

 そんなことを考えながら、暑すぎてつらかった今年の夏がようやく終わっていく。=朝日新聞2025年10月1日掲載