人気の絵本作家、ヨシタケシンスケさんが真正面から、あるいは思わぬ角度から、人生相談に答えた。新発売の著書「お悩み相談 そんなこともアラーナ」(白泉社)は、うまくいかなくて当たり前と説き、「美しい逃げ方」「楽しいあきらめ方」を推奨。日々の憂いを笑いでちょっと溶かしてくれる読み物だ。
常日頃、自分のことで精いっぱいというヨシタケさん。「雑誌の人に『悩み相談の連載をしませんか』と言われ、なりゆきでやらせていただいた。解決はできないけれど、自分と似た生きづらさを抱え込んだ人に、共感はできます」
回答者としての立ち位置は、地べたを這(は)うほど低いところにある。「そこの珍しさしかないというか……」。自嘲とも自負ともとれる思考法が、答えの随所に光る。
会社で劣等感を覚える20代の相談者には、「社会人のほとんどは『すごいように見せるテクニック』が上手なだけ」と応じる。将来の夢が見つからないという大学生には、「とりあえず、絶対にやりたくないことをやらずに済むには、どうすればいいかだけ、考えて」。
子どもたちからは、「人間生活で一番大事なことは?」「幸せになるには?」という大問題も寄せられた。「自分も子どもの頃、大人は大切なことを知っているはずだと思っていた。でも、きれいごとを返されて『体よく処理されたな』とイラッとした。今でもイラッとしやすい人間として、自分だったらこう答えてほしかったなと思えるような答えを心がけました」
何ごとも悲観的に予測する、自称「ネガティブチームの人」。
「ポジティブに生きている人には、わかりもしない未来に期待しながらよく生きていけると思う。それは減点方式で生きるようなもの。われわれは零点からの加点方式で生きているから、世の中に失望せずに済むんです」と晴れやかに語る。
100を超す相談を受けてきて「自分の悩みも他人の悩みも基本は変わらない」と感じた。
「起きることはひとつでも、受け止め方は選べる。思い詰めたとしても、おたまを手に散歩に出たら何かが変わるかもしれない。日によって正解は変わる。解決はできなくても、この本を読んでクスッとでも笑ってもらえたら」(藤崎昭子)=朝日新聞2025年10月8日掲載