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鹿島和夫・選、ヨシタケシンスケ・画「一年一組 せんせいあのね」眠っていた自分の声が蘇る

 54編の小学1年生が書いたつぶやきのような詩である。何かに気づいた驚きがそのまま言葉になっている。大人はめったに驚かないし、たいていは手持ちのありふれた言葉で自分を守りつつその場をやり過ごしてしまう。この本の読者の多くは大人だろう。子どもの生の言葉に触れ、眠っていた自分の声が蘇(よみがえ)ってくる気がするのではないか。

 「さかなは目をあいたまましんでいます/やいても目をあいています/おさらにのったさかなは/たべられるのをじっとみているようです」

 「はだかで/はをみがくと/ちんちんがゆれます」

 子どもだからといって、どんな時でもこういう詩が書けるわけではない。いろんな場で大人から感想を聞かれたりすると、ほとんどの子は「楽しかった」と答える。あるいは「わかんない」と。ごちゃごちゃした気持ちを言葉にするのは簡単ではないし、相手が本気で自分の考えを聞きたがっているとも思えないから、とりあえず紋切り型で返しているのだろう。だが紋切り型に頼ってばかりいると、子どももいつのまにか手近な言葉ばかり遣うようになる。

 それぞれの詩にはヨシタケシンスケさんの楽しい挿画が描かれている。1981年の初版本には、学校での生き生きした表情の子どもたちの写真が載っていた。撮ったのは担任教師の鹿島和夫さんで、本書のすべての詩も鹿島さんと子どもたちが日々交換した「あのね帳」から生まれた。初版本の灰谷健次郎さんとの対談で、鹿島さんは「子どもたちが何でも教師に向かって言える自由」を大事にしたと語っている。先生と心が通いあったとき、はじめて生きた言葉が子どもの中から出てきたのである。

 「せんせいあのね/なんでそらのほしは/ほしのかたちがしてないの」

    ◇

 理論社・1650円。23年5月刊。11刷11万1千部。今年7月には続編も出た。担当編集者は「子どもの言葉の力が詰まった本を絶滅させたくなかった。クラスメートのようなヨシタケさんとのタッグで、教室の空気がそのまま蘇った」。=朝日新聞2025年10月11日掲載